HIU公式書評Blog

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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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小説

【書評】わたしも、自分のものだったすべてに別れを告げる。『2061年宇宙の旅』

一作目の『2001年宇宙の旅』が1968年、二作目『2010年宇宙の旅』は1982年に、そして本作は1987年に発表されている。タイトルでお分かりの様に、前作『2010年宇宙の旅』から51年も経過しているという奇抜さ。そんな第三作目が一体何を物語ると言うのか。主人…

【書評】『死の貝』 - 日本住血吸虫症との闘い

皆さんこんにちは。『死の貝』は、山梨県のある村で発見された地方病、日本住血吸虫症の原因究明から治療法の開発、予防策の実施に至るまでの長い戦いを詳細に記録しています。 物語は江戸時代に遡り、甲府盆地の釜無川流域で謎の病が発生する場面から始まり…

【書評】あれから9年、再び木星への旅が始まる。『2010年宇宙の旅』

大ヒットーーーそんな在り来たりの言葉では言い表せない不朽の名画『2001年宇宙の旅』。その続編はあり得ないと長年言い続けていたアーサー・C・クラークが、1977年の引退宣言、そして1979年の作家復活を経て、ついに1982年1月に発表したのが本作である。『2…

【書評】『地面師たち』 - リアルな事件を元に描かれたスリリングな物語

皆さんこんにちは。今日は、2017年に実際に起きた、積水ハウスが55億円を騙し取られた土地詐欺事件を基に描かれた小説『地面師たち』についてご紹介します。この小説は、現実の事件をベースにしつつも、フィクションとして緻密に描かれた作品です。 物語の概…

【書評】ヤクザが”人情”でいざ世直し!『任侠シネマ』

暴力団の親分が文化を論じ世直しを公言し、小さな映画館をコンサルする。暴力団と言っても小さな暴力団でお金を持っていない。もちろん警察にも目をつけられている。だけど知恵とアイデアで潰れかけの映画座を立て直し。 暴力団でお金も持っていないけど、義…

【書評】キラキラした生活を見つめる中級国民の声を集めたような本『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』

共感するけどしたくない。心を抉る内容に読んでいる自分の顔を知りたくなる。 SNSで一流の人と自分を比較してしまう。そんな自分がすごく嫌になる。言語化したことはなかった気持ちを見事に言語化してます。爽快感なのか、劣等感なのか、いろんな感情を持っ…

【書評】宝探しがしたくなる小説『水曜の朝午前三時』

「有り得たかもしれないもう一つの人生、そのことを考えない日はなかった……」。叶わなかった恋を描く、究極の大人のラブストーリー。恋の痛みと人生の重み。 悪口ばかりだったヒロインが最後の最後にポジティブな言葉を残していた。人生を通して教訓は死に際…

【書評】『チームオベリベリ』明治時代のフロンティアスピリッツ

皆さんこんにちは。乃南アサの『チーム・オベリベリ』は、明治時代の日本の開拓者たちに焦点を当てた感動的なリアル・フィクションです。物語の中心には、先進的な教育を受けた鈴木カネという女性がいます。彼女は、新天地である帯広――もともとはアイヌ語で…

【書評】 人はなぜ、金に狂い、罪を犯すのか。現代の抱える問題•闇について考えさせられる1冊『黄色い家』

2020年春、総菜店に勤める花は、ニュース記事に黄美子の名前を見つける。60歳になった彼女は、若い女性の監禁・傷害の罪に問われていた。長らく忘却していた20年前の記憶ーー。黄美子と、少女たち2人と擬似家族のように暮らした日々。まっとうに稼ぐすべを持…

【書評】 池井戸潤が描く銀行員、花咲舞の奮闘記『花咲舞が黙ってない』

正義感が強く、忖度など考えない花咲舞。舞と組織の上からの圧でいつも板挟みになる、舞の上司の相馬健。2人の名コンビの他にも、紀本など登場人物1人1人が魅力的なキャラクターで面白かった。 また、物語の途中とクライマックスで、産業中央銀行(花咲舞は…

【書評】『宝島』 - 混沌とした時代を駆け抜ける沖縄コザの少年たち

皆さんこんにちは。終戦直後の沖縄コザ地区、米軍基地から物資を盗み出す「戦果アギヤー」と呼ばれる少年たちがいました。彼らはある日、最大の基地である嘉手納基地に忍び込みます。そこでは米軍の反撃にあい、メンバーは命からがら、リーダーは生死不明で…

【書評】『黒の試走車』  - 暗躍する産業スパイ

皆さんこんにちは。梶山季之の『黒の試走車』は、1962年に発表された経済推理小説であり、当時の高度成長期の日本における自動車業界の激しい競争を背景にしています。この物語は、産業スパイ活動や企業間の熾烈な情報戦をリアルに描写し、企業情報小説とい…

【書評】「量子コンピューターの最先端に躍り出た日本。産官学を交えた国家間の駆け引きが繰り広げられる」『タングル』

量子コンピューターの最先端に躍り出た東都大工学部の早乙女研究室。国を跨いだ産官学プロジェクトにシンガポールと日本の両政府とその恩恵に預かろうとする投資家、企業のそれぞれの思惑が交錯する。 この本のテーマである光量子コンピューターは、今注目さ…

【書評】犯人を見つけてはいけない『十戒』

皆さんこんにちは。今日は夕木春央の『十戒』を紹介します。あるきっかけで個人所有の小さな無人島に集まった9人のうち、1人が殺されます。犯人からのメッセージにより、残された人々に課された戒律は「決して殺人犯を見つけてはいけない」でした。 物語の主…

【書評】核実験停止も軍縮もベルリン問題も、半熟卵や焼き林檎や乾葡萄入りのパンなどと一緒に論じるべきなのだ。『美しい星』

私が読む三島由紀夫の作品は、これで二冊目なので良くは存じていないながら、三島作品ではSF的な本作は異色のものだそうだ。三島当人は、どうやら推理小説は全否定しているが、SF小説は好んで読んでいたらしく、こう語っている。「推理小説などと違って、そ…

【書評】辻村深月の世界 - 『冷たい校舎の時は止まる』

皆さんこんにちは。今日は辻村深月の小説、『冷たい校舎の時は止まる』を紹介します。この作品には、多くの要素が詰まっており、それぞれが緻密に絡み合っていることに驚かされました。 物語の舞台は、受験を控えた高校3年生たちの日常。しかし、その日常は…

【書評:】劉慈欣『白亜紀往事』 - 恐竜と蟻が紡ぐ共存の物語

皆さんこんにちは。劉慈欣は、彼の代表作「三体」により世界中のSFファンから高い評価を受けている中国の作家です。しかし、その長大な三部作(続編もあります)に取り組むことに躊躇する読者も少なくありません。そんな読者にぜひお勧めしたいのが、一冊で完…

【書評】美しい自然と孤独の中に生きる「湿地の少女」 - 『ザリガニの鳴くところ』

皆さんこんにちは。ディーリア・オーエンズによる「ザリガニの鳴くところ」は、自然の美しさと厳しさ、人間の孤独と強さを繊細に描き出した作品です。1950年代から1960年代のノースカロライナの沼地を舞台に、家族に捨てられ、社会から孤立した少女、カイア…

【書評】紀田順一郎『東京の下層社会』- 過去からのメッセージ、そして今につながる思索

紀田順一郎の『東京の下層社会』は、近代日本が急速な発展を遂げる中で生まれた社会経済的弱者、特に極貧階層の生活に光を当てたルポタージュ作品です。この本を通じて、紀田は、明治時代の東京におけるスラムの悲惨な状況、もらい子殺し、娼婦や女工への恐…

【書評】爽やかな風に乗って、落語の世界へ - 『おあとがよろしいようで』

東京の大学に入学したばかりの主人公が、偶然の出会いをきっかけに落語研究会に足を踏み入れる――そこから始まるのは、ただの大学生活ではなく、自己発見と人間関係の構築、新たな世界への旅立ちの物語。喜多川泰さんの『おあとがよろしいようで』は、そんな…

【書評】祈りなんて、得をしている人間の使う言葉でしょう。ぎりぎりの命には、祈りが入りこむ余地はない、と思うな。『白日』

私が初めて読んだ北方謙三の小説。今でこそ『三国志』や『水滸伝』などと言った『中国歴史小説のアツいヤツ版』の作家になっているが、元々は『逃がれの街』『友よ、静かに瞑れ』といったハードボイルド作家として鳴らしていた。何故現代劇から身を引いてし…

【書評】祈りなんて、得をしている人間の使う言葉でしょう。ぎりぎりの命には、祈りが入りこむ余地はない、と思うな。『白日』

私が初めて読んだ北方謙三の小説。今でこそ『三国志』や『水滸伝』などと言った『中国歴史小説のアツいヤツ版』の作家になっているが、元々は『逃がれの街』『友よ、静かに瞑れ』といったハードボイルド作家として鳴らしていた。何故現代劇から身を引いてし…

【書評】恐怖の爪痕: 『羆嵐』に見る自然の猛威

こんにちは皆さん。先日、映画『ゴールデン・カムイ』を見てきました。明治時代の北海道を舞台としたストーリーです。そこで今日は以前読んだ本、『羆嵐』についお話しします。 自然の中には、我々人間が理解し、制御することのできない力が存在します。それ…

【書評】『勁草』から「BAD LANDS バッド・ランズ」へ - 原作と映画の違いを探る

みなさん、こんにちは。今回は、黒川博行さんの小説「勁草」と、それを基にした映画「BAD LANDS バッド・ランズ」の違いについてお話ししたいと思います。 原作「勁草」の物語:「勁草」の物語は、振込め詐欺グループの手下として働く主人公の日常から始まり…

【新着記事】YouでもTheyでもないワタシという存在。 『一人称単数』

さすが村上春樹。直接的な言い方をせずに現代社会を生きる私たちにゾクッとした感覚を味あわせてくれる。 「一人称単数」は短編集の中の15ページほどの短い小説である。 簡潔に言うと、クローゼットからほとんど着たことのないスーツを見つけたので、そのス…

【書評】予想を裏切るSF世界への招待 - 柞刈湯葉『まず牛を球とします。』

みなさんこんにちは、今回は柞刈湯葉による奇想天外なSF短編集「まず牛を球とします。」を紹介します。このタイトルを見て、数学や物理の深い話かと思いきや、実は全く違う内容が待っていました。タイトルの秘密「まず牛を球とします。」という言葉からは、…

【書評】予想を裏切るSF世界への招待 - 柞刈湯葉『まず牛を球とします。』

みなさんこんにちは、今回は柞刈湯葉による奇想天外なSF短編集「まず牛を球とします。」を紹介します。このタイトルを見て、数学や物理の深い話かと思いきや、実は全く違う内容が待っていました。タイトルの秘密「まず牛を球とします。」という言葉からは、…

【書評】人との出会いで考え方やその後の人生も大きく変われる『おあとがよろしいようで』

新年一冊目にして、最高の作品と出会いました。 本書は喜多川 泰さん著、落語をテーマにした小説。主人公の門田 暖平は、群馬から東京のとある大学に進学し、ひょんなことから落語研究会に入ることとなる。 そこでの出会いや出来事、様々な体験、主人公の両…

【書評】成長と冒険の旋律 - 室町の激動を生きる『室町無頼』

みなさんこんにちは。先日読んだ「一冊でわかる室町時代」と一緒に借りた、垣根涼介著の「室町無頼」を読みました。この作品は、応仁の乱の5年ほど前、混沌とした京都を舞台にした物語です。主人公は、没落した牢人の息子として、多くの人々との出会いを通じ…

【書評】夏の記憶 - 『しずかな日々』心に残る季節の魅力

仕事が夏休みに入った日、手に取った一冊の本が椰月美智子の『しずかな日々』でした。この小説は、小学5年生の少年がおじいさんの家で過ごした夏の日々を中心に描かれています。 物語の情景物語を読み進めるうち、主人公が過ごす縁側の情景が鮮明に浮かび上…