東京の大学に入学したばかりの主人公が、偶然の出会いをきっかけに落語研究会に足を踏み入れる――そこから始まるのは、ただの大学生活ではなく、自己発見と人間関係の構築、新たな世界への旅立ちの物語。喜多川泰さんの『おあとがよろしいようで』は、そんな青春の一ページを瑞々しく、そして温かみのある筆致で描いています。
本作の主人公は、他人とのコミュニケーションに苦手意識を持つ一人の若者。しかし落語研究会の先輩との出会いを通じて、次第に人との関わり方、そして自分自身について学んでいく。落語の持つユーモアや人生の洞察も、主人公の心を解きほぐし、読者にもその魅力が伝わってくる。
喜多川泰さんは、大学キャンパスや街の風景を背景に主人公たちの青春を描き、読者にもその風景、雰囲気をイメージさせ懐かしさや新鮮さを感じられます。若き日に抱える悩みや不安が、時として些細なものに思えることもありますが、それでも当時は重く感じられるものです。そんな青春特有の感情を、繊細に、しかし明るく描いています。
『おあとがよろしいようで』を閉じた時、心温まる満足感に包まれました。物語の冒頭やタイトルに散りばめられた伏線が見事に回収され、物語は完結します。喜多川泰さんの作品は、青春の一コマを切り取りながらも、そこに普遍的な人間の成長と学びを描き出していました。