HIU公式書評Blog

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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】淑女予備軍の紆余曲折・・・スムーズな青春こそ罪なり。『淑女たち -WAILERS-』

 

ちょっとぼんやりで内気なメガネっ子の今日子、関西弁丸出しでややふくよかな留利子、くわえタバコにクールな物言いの麻美。
美大の油絵科に通う女子三人。現在二十歳の同級生で、ボロアパートで同居中。いずれも男っ気無し。
芸術に真剣に向かいつつ、たまに彼女たちなりの”いい男”に気持ちを揺さぶられては玉砕したり、男を見る目の無さに落ち込んだり。
今ひとつ流行りや廃りには乗れない、内気でガンコな三人組のケナゲにも思える日常の物語。

狩撫麻礼の作品で、女子たちが主役とは珍しい。しかし、女子たちとはいえやはり狩撫節は炸裂する。
美大の男なんて、どうせ才能のある奴ほど広告関係に進んで、資本制社会の先兵になるか、画商や評論家とつるんで、画家とは名ばかりの男芸者になるかのどっちかじゃないか」
「親兄弟ちゅうのは世間の最前線やで。そんなもんと仲よくやっていける芸術なんか信用できへんよ。あまりにも過激にリアリティを求めたら、当然世間のツマハジキになってゆくもんや。美術史の天才たちを思い起こしてみィ!!」
「こんな世の中がいつまでも続くと思ってる馬鹿ほど明るいもんな。洗脳されてるのも気付かないでさ」

ちょっとした出会いの数々に何かを感じ、少しずつ学んでいく三人の姿は、コメディでもあり、センチメンタルでもある。
「何度生まれ変わっても、いい思いなんか出来っこない気がしてきたよ」
WAILERS〜嘆き悲しむ者たち。
それでも彼女たちは、決して易きには流れない。
およそ人の道に到達点はなし。ただ、そこに至るプロセスがあるのみ。無垢と情熱と意志を武器に、淑女への長き階段をワンステップ。

淑女たち -WAILERS-
作者: 狩撫麻礼中村真理子
発売日:1985年3月15日
メディア:単行本

 

 

【書評】3人の視点が交互に入れ替わり、織りなすストーリー『グラスホッパー』

妻を殺された男に復讐をすべく潜入捜査中で主人公の1人である「鈴木」、ターゲットを自殺させることを生業としているが、自殺に関わった人の幻覚に悩まされる2人目の主人公の「鯨」、そしてナイフを使いで殺し屋である3人目の主人公である「蝉」の3人の視点が交互に入れ替わりながらストーリーは進みます。

そんなある日鈴木の復讐相手である男が事故で亡くなったことをきっかけとして、3人それぞれのターゲットは「押し屋」と判明し、探し求めていく。果たして「押し屋」の正体は誰なのか?「押し屋」を見つけたあと、果たして主人公3人はどうなったか?そして「押し屋」から語られる真相とは??

伊坂作品の面白さは物語の伏線回収と別作品とのキャラクターや作品同士のリンクでと言われてますが、個人的に思うのは、ストーリーは緻密でありながら、終わった後も良い意味で消化不良を感じると私は読むたびに思っています。有名どころである『ゴールデンスランバー』や『重力ピエロ』『アヒルと鴨のコインロッカー』『死神の精度』など、どれから読んでも伊坂作品の良さや面白さを感じて頂ければと思います。

著者 :伊坂幸太郎
出版社:幻冬舎文庫
出版日:2007年6月23日

 

 

【書評】3人の視点が交互に入れ替わり、織りなすストーリー『グラスホッパー』

妻を殺された男に復讐をすべく潜入捜査中で主人公の1人である「鈴木」、ターゲットを自殺させることを生業としているが、自殺に関わった人の幻覚に悩まされる2人目の主人公の「鯨」、そしてナイフを使いで殺し屋である3人目の主人公である「蝉」の3人の視点が交互に入れ替わりながらストーリーは進みます。

そんなある日鈴木の復讐相手である男が事故で亡くなったことをきっかけとして、3人それぞれのターゲットは「押し屋」と判明し、探し求めていく。果たして「押し屋」の正体は誰なのか?「押し屋」を見つけたあと、果たして主人公3人はどうなったか?そして「押し屋」から語られる真相とは??

伊坂作品の面白さは物語の伏線回収と別作品とのキャラクターや作品同士のリンクでと言われてますが、個人的に思うのは、ストーリーは緻密でありながら、終わった後も良い意味で消化不良を感じると私は読むたびに思っています。有名どころである『ゴールデンスランバー』や『重力ピエロ』『アヒルと鴨のコインロッカー』『死神の精度』など、どれから読んでも伊坂作品の良さや面白さを感じて頂ければと思います。

著者 :伊坂幸太郎
出版社:幻冬舎文庫
出版日:2007年6月23日

 

 

【書評】ほのぼのとした日常を描く阿佐ヶ谷姉妹のエッセイ。『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』

 

私もTVなどで拝見したことはあるが、本当の姉妹では無い事にまず驚き、40代・独身・女芸人という肩書ながらエッセイを書いている時には6畳一間に2人暮らしというのも更に驚きました。この年代になると別の部屋が欲しいと思うところだが。。。

エッセイというとこで、日常生活における些細な小競り合いとか、お互いマイペースながら気になるところとかをそれぞれの目線で交互に書かれている所が面白く、その内容が想像しやすく、思わず「細かすぎるけど確かに気になるなあ・・」と思う事が多々あって面白いです。

一方でお互いの事だけでなく、ご近所さんのおすそ分けの餃子が人生で一番おいしいという話、美容室のスタッフの話、中華料理屋さんのご婦人が亡くなり、人生の大切さを教えてくれる話など、ほのぼのストーリー以外も読んでいて面白いですし、本人たちが書いた書き下ろしの小説までも掲載されており、こちらは読みやすく平和な日常を感じる楽しい作品です。

読書の秋に何か読んでみたい方にお勧めします。日常を描いた作品としては絵本?ではありますが、矢部太郎氏の「大家さんと僕」もおすすめですよ。

著者 :阿佐ヶ谷姉妹
出版社:幻冬舎文庫
出版日:2020年2月6日

 

 

【書評】ブランディングの成否は「走り出す前の準備」にかかっている。『ブランディング・ファースト〈メソッド編〉』

本書は、2020年発刊の『ブランディング・ファースト』の続編なのだそうだ。広告費をかける前に「ブランド」をつくる。これが前著のサブタイトルで、数多の広告に埋もれない為に「ブランド」を構築せよ、といったものだったのだろう。
時が経ち、状況は悪化している。
コロナ禍の影響は、ファンをつくれていなかったビジネスを苦境に立たせた。また、 SDGsがビジネスの大きな道標となってきている現状では、より一層ブランディングの重要性が問わることとなる。
概念や方法論がメインとなった前著では網羅出来なかった実践・メソッドを表すのが本書である。企業がブランディングに取り組む時に、「失敗の原因になり易い要素」を徹底的に潰すことを念頭に置いて書いたと著者は言う。
その手法が「Branding DRIP Method(ブランディング・ドリップ・メソッド)」。
①「SETUP」、②「DRIP」、③「SERVE」の3つのフェーズで推進すると言うこの手法。著者は、それぞれのフェーズに於いて、どの様に進めていくのかの詳述を進めていく。
大事なのは、マネジメント層のブランディングに対する理解、インナー、つまり従業員などのスタッフも取り込めた進め方によって社内での共感を得ること、それから双方のパッション。これらを備えた上で、パーパスやビジョン、ブランドマップを整えていく。

「What」から「Why」への転換も大事だ。「何が出来る」ではなく「何故この会社でビジネスをしているのか」、「どんなブランドになりたいのか」ではなく「どんな社会にしていきたいのか」を考えることだ。
何故自社が存在するのか、社会に何を提供出来るのか、という存在価値を規定するのである。
人を共感させ、動かす力を持っているのはWhyであり、これを的確に設定することが、自ずとSDGsに繋がり、持続可能性を高める。
優れたリーダーは、「What、How、Why」ではなく、「Why、How、What」のゴールデンサークルで行動すべきなのである。
「デザイン = 見た目」ではない。「ブランド = 広告」ではないのだ。そして、心が動く体験を提供することが求められるのが現代のプロモーションなのである。

ブランディング・ファースト〈メソッド編〉
作者: 宮村 岳志
発売日:2022年5月21日
メディア:単行本

 

 

【書評】何気ない日常とお茶を通じて、人生で大切なことを学ぶ『日々是好日 ~「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』

ふとしたきっかけから「お茶」を習い25年、人生の大事なことに気づいていくエッセイ。著者の森下氏が20歳からお茶を習い始めますが、最初上手くいかずやり方を聞いても教えてももらえない状況が続きます。本人も就職がうまくいかず、「お茶」での成長も感じられないので何度も辞めようと思いますが、なんだかんだで続けていきます。

そのうち茶道具、一輪挿しの花、季節ごとの和菓子、イベントなどを通じて「お茶」の良さに気づいていき、そしてある雨の日に雨音を聞きながら「いま、生きている!」という言葉にできない何かを悟ることになります。

このようなエピソードを綴りながら15しあわせに気づいていきます。例えば人と比べるではなく過去の自分と比べること、 本物を知り、いくつになっても勉強する姿勢を持つこと等。 まさにその通りだと思うしあわせが15個書かれています。 

後半部分に著者の見解として 「お茶とは季節のサイクルに沿って日本人の暮らしの美学と哲学を体験させながら知ることであった」 という部分は感銘を受けました。

最近ではスマホノイズキャンセリングイヤホンなどの登場で、季節を五感で感じる機会が減っていると個人的に感じておりますので、この本で「お茶」を学びながら日本の四季の良さを感じて頂けると嬉しいです。映画化もされてますので、そちらから見て頂いても良いかもしれません。

著者 :森下 典子 
出版社:新潮社 
出版日:2008年10月28日

 

 

【書評】室町のイメージが変わる!『一冊でわかる室町時代』

 

室町時代といへば金閣銀閣!それ以外はぼんやりしていた。ドラマなどに取り上げられることも少なくやや知名度が劣る。しかし、本書でそのイメージは見事にひっくり返された。

南北朝時代から戦国時代までを含むと実に250年も続いた足利時代。一体何が起こっていたのか?それをざっくり知ることができる内容だ。

著者はこの時代を一言でいうと「力強い時代」という。そのベクトルは中央から地方、上層から下層と向かっていた。徐々に下剋上が起こったのもこの現れだ。

幕府が守護に力を与えないよう京に住まわせた結果、各国を実質支配した守護代をはじめさらには家臣らが力をもってのし上がっていく。かの織田信長もこの流れの中にいるわけだ。自分の好きな戦国武将はどういう流れからきているのか調べるのも面白そうだ。

各地に広がったのは政治力だけではない。一次産業の発展から商工業が活発化するなど経済も加速。文化や習慣も中央から流出し発展した。能や茶道もその一例。戦乱の世でありながらあらゆる分野の変革に力強さを感じずにはいられない。人、モノ、概念が大きく流動していたのだ。

「そういへば戦国武将ってどうやって出てきたの?」とふと気になった方には特におすすめ。室町時代の諸事情を理解するとその過程がわかりワクワク感が止まらないだろう。

いつものことだが現代の価値観でみてしまうと、兄弟、味方で繰り返される裏切り、嘘、そして殺し合いは信じがたいものがある。室町時代もそれが平常運転で、個人的には読みながら途中やや疲労を感じたことは否めない。

が、当人たちは自分たち(家)が生き残るために必死なのである。家内の争いが”この時代のデフォルト”であることを必死に想像しながら「歴史って面白い」と改めて思うのであった。

 

 

【書評】世界で最も過酷なレース『10月の満月に一番近い土曜日』

以下の中で、どれが一番ハードだろう.........?
1)ワイキキ・ラフ・ウォータースイム大会:3.8km...
2)オアフ島一周サイクルロードレース:180km......
3)ホノルルマラソン:42.195km...

「それらすべてをいっぺんにやるのが一番ハードさ!!」そんな会話から世界で最も過酷なレースが始まった!本書はトライアスロンの最高峰・IRONMANの創成期を描いたマンガである。「10月の満月に一番近い土曜日」に、KONAでIRONMAN World Championshipが開催される。

基本的に1話読み切り。亡き夫の思いと一緒に走るシングルマザー・大事故からの再起に懸けるアスリート・平凡な人生を捨て自分との勝負に挑む男など。それぞれの人間ドラマに思わず涙ぐんでしまう。

評者は来月トライアスロンに初挑戦する(オリンピックディスタンス)。そのためにお世話になっているコーチが来月KONA に挑戦するそうだ。今年の「10月の満月に一番近い土曜日」は10/8(土)である。

いつか私もIRONMANを目指したくなるのだろうか?いまはとても考えられないが、読むと胸が熱くなってしまう。

 

 

【書評】遺伝子とは自己複製子であり、我々は人間はその機械である!『利己的な遺伝子』

 

衝撃的な見出しで信じられない人もいるかもしれませんが、当著で提案され、当時賛否両論が巻き起こった本である。遺伝子とは「自分のコピーを残すこと」を目的とした自己複製子であるという主張です。

この前提を頭に入れて読み進めると、世の中のあらゆる行動や現象が思っていることが正反対という事が分かります。例えば動物が外敵から子どもを守る行為は、一見利他的(他人の為の行動)と思われるが、実は遺伝子目線で考えると利己的(自分勝手)である。これはその親子関係ではなく、その動物全体の遺伝子で見ると遺伝子コピーを残せる可能性のある子どもを守る本能が働いているからである。

この他にも「なぜ世の中から争いがなくならないのか」「なぜ男は浮気をするのか」「雌雄の争い」も同じ理屈で利己的な遺伝子を説明しています。これは個人的な意見ですが、「自己複製子が生き残ることに注力する」という事は、インフルエンザやコロナウィルスの変異もワクチンに対する抵抗=複製子が生き残る当然の活動(毒性が強すぎると人が死亡するので、弱毒性にして感染力を上げる)と理解できます。

このような話を聞いていると、人間=機械と思われがちですが、こういった遺伝子の本能に唯一対抗できるのが人間で、それは文化的な概念「ミーム:例えば宗教とか哲学」を持っているからであると説いてます。確かにミームによって現在様々な生き方やライフスタイルがあり、確かに本能に抗う事が出来ているように思えます。

少し難しい本ですが、解説動画などのも見ながら遺伝子側の目線で見た世の中の動きを見れば、新しく面白い視点に気づかされると思います。

著者 :リチャード・ドーキンス (著), 日高 敏隆・岸 由二・羽田 節子・垂水 雄二 (翻訳)
出版社:紀伊國屋書店; 増補新装版 
出版日:2006年5月1日

 

 

【書評】世紀末の地獄を意に介さぬ少年たちの熱情。彼らの共通項こそはバトル・ミュージック"PUNK"であった。・・・破壊せよ!『バトルキッズ』

 

世紀末モノの漫画である。
ノストラダムスの予言した“恐怖の大王”とは偶発最終核戦争のことではなく、太陽黒点の異常増殖による地球規模の天候異変だった。食糧危機は世界の秩序を瞬時に解体し去った。
二年続きの世界的な作物不作、次いでアメリカとソ連が局地戦で核を使用したことで、全てが変わったのだった。
犯罪者の増加に対処出来なくなった警察は、ゴミ捨て場だった夢の島埋立地を高さ30mの塀で囲い、重犯罪人をそこへぶち込んで放置する方途を用いた。そして、東京都自体も外部への移動は厳しく監督されていた。
と言うことで、『マッドマックス』と『ニューヨーク1997』を合わせた様な設定の、荒廃した東京都が舞台。

強奪、かっぱらいの類いが横行している街中で、主人公である16歳のキッドは、廃ビルの屋上にあるペントハウスに愛犬ニジンスキーと暮らしていた。
闇市に食料を仕込みに出かけるキッド。金は無い。代金は所蔵しているロックのLPレコードの数々。キッドは、元パンクバンド「バトルキッズ」のギター兼ボーカリストだったのだ。

荒んだ世界にあっても警察、暴力団はしぶとく存在していた。
夢の島への囚人護送車が襲撃を受ける。護送車には暴力団の親分が捕らえられていたのだ。解放された護送車から囚人たちも便乗して街へと逃げ出した。
闇市からの帰路、キッドは囚人の一人と遭遇して叫んだ。
「セイント!!」
彼は、「バトルキッズ」のギタリストだった。
二年ぶりの再会。あれ以来、メンバーの消息は不明。
「逢えるさ、きっと・・・・・逢えると思う。生きてさえいればね・・・・・」
キッドには確信めいたものがあった。
「あの頃・・・・・まさかこんな世の中になるなんて想像もしなかったよな」
セイントの呟きにキッドは答える。
「でもないさ。世紀末ってんだろ? こーゆーの。結構楽しいよ。なんかこう生きてる気がしてさ」
やがて、キッドの予言通りドラマーのガンジャ、キーボードのネイマ、ベースのトオル、サックスの万作たちも合流しする。
そして、キッドたちはアナーキーな破壊への奔流へと誘われていく。

狩撫麻礼が近未来SFとは珍しい。そして、作画が東本昌平というのも、ちょっとばかり意表を突く組み合わせだ。『キリン』を始めとするバイク漫画の大家が描くバイクシーンはやはりカッコいい。あ、そういえば狩撫麻礼もバイク乗りであった。
本作は確か、掲載誌が廃刊になって連載終了した様な記憶がある。
迎えたエンディング。
それは、遠くない将来に於ける、権威者たちの倒壊を示唆していた。
彼ら「バトルキッズ」のツアーはこれからも続く。
「ロックの敵・・・体制を、オレたちがガタガタにしてやる!!」

バトルキッズ
作者: 狩撫麻礼東本昌平
発売日:1985年2月14日
メディア:単行本