HIU公式書評Blog

HIU公式書評ブログ

堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

MENU

【書評】世紀末の地獄を意に介さぬ少年たちの熱情。彼らの共通項こそはバトル・ミュージック"PUNK"であった。・・・破壊せよ!『バトルキッズ』

 

世紀末モノの漫画である。
ノストラダムスの予言した“恐怖の大王”とは偶発最終核戦争のことではなく、太陽黒点の異常増殖による地球規模の天候異変だった。食糧危機は世界の秩序を瞬時に解体し去った。
二年続きの世界的な作物不作、次いでアメリカとソ連が局地戦で核を使用したことで、全てが変わったのだった。
犯罪者の増加に対処出来なくなった警察は、ゴミ捨て場だった夢の島埋立地を高さ30mの塀で囲い、重犯罪人をそこへぶち込んで放置する方途を用いた。そして、東京都自体も外部への移動は厳しく監督されていた。
と言うことで、『マッドマックス』と『ニューヨーク1997』を合わせた様な設定の、荒廃した東京都が舞台。

強奪、かっぱらいの類いが横行している街中で、主人公である16歳のキッドは、廃ビルの屋上にあるペントハウスに愛犬ニジンスキーと暮らしていた。
闇市に食料を仕込みに出かけるキッド。金は無い。代金は所蔵しているロックのLPレコードの数々。キッドは、元パンクバンド「バトルキッズ」のギター兼ボーカリストだったのだ。

荒んだ世界にあっても警察、暴力団はしぶとく存在していた。
夢の島への囚人護送車が襲撃を受ける。護送車には暴力団の親分が捕らえられていたのだ。解放された護送車から囚人たちも便乗して街へと逃げ出した。
闇市からの帰路、キッドは囚人の一人と遭遇して叫んだ。
「セイント!!」
彼は、「バトルキッズ」のギタリストだった。
二年ぶりの再会。あれ以来、メンバーの消息は不明。
「逢えるさ、きっと・・・・・逢えると思う。生きてさえいればね・・・・・」
キッドには確信めいたものがあった。
「あの頃・・・・・まさかこんな世の中になるなんて想像もしなかったよな」
セイントの呟きにキッドは答える。
「でもないさ。世紀末ってんだろ? こーゆーの。結構楽しいよ。なんかこう生きてる気がしてさ」
やがて、キッドの予言通りドラマーのガンジャ、キーボードのネイマ、ベースのトオル、サックスの万作たちも合流しする。
そして、キッドたちはアナーキーな破壊への奔流へと誘われていく。

狩撫麻礼が近未来SFとは珍しい。そして、作画が東本昌平というのも、ちょっとばかり意表を突く組み合わせだ。『キリン』を始めとするバイク漫画の大家が描くバイクシーンはやはりカッコいい。あ、そういえば狩撫麻礼もバイク乗りであった。
本作は確か、掲載誌が廃刊になって連載終了した様な記憶がある。
迎えたエンディング。
それは、遠くない将来に於ける、権威者たちの倒壊を示唆していた。
彼ら「バトルキッズ」のツアーはこれからも続く。
「ロックの敵・・・体制を、オレたちがガタガタにしてやる!!」

バトルキッズ
作者: 狩撫麻礼東本昌平
発売日:1985年2月14日
メディア:単行本