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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】広告代理店とテレビ局と銀行に演出されてるような・・・そんなのどーでもいい。『天使派リョウ』

 

1990年から1992年にかけて、ビッグコミックスピリッツに連載された本作。連載当初に数話を読んだ覚えはあったが、なんだかよく分からんよーな印象を受けた記憶がある。
丁度その頃から漫画を読むこともなくなった為、長いこと未読のままだったし、最近になって狩撫麻礼の作品を改めて漁っていたのにもかかわらず、先の印象のこともあってなんとなく読む気にはなってはいなかったのだが、ウェブ検索してみて単行本で全十巻もあることに気づき、こんなに続いたってことは、こりゃ何かある。読むべきなんじゃないかと思い至った次第だ。
作画は狩撫麻礼作品には馴染みのある中村真理子が担当している。

90年代、バブル末期。OLをしている姉のエイコと、ワンルームで仲良く暮らしているリョウ。親に内緒で大学を中退したプータローだかフリーターだかの身で、気ままな毎日を暮らしている。
飄々としてこだわり無く、ヘラヘラとした只のアホっぽいリョウと、長女らしく妙に生真面目で素直、意外に豪胆でサッパリ、ついでに言うと運動神経ゼロのエイコ。姉と弟のタッグによる、若さ故のドタバタやセンチメンタリズムをコメディ基調のタッチで綴った物語。

と、思いきや!
リョウのバイト友達の大山クン、エイコの同僚のカオリやトキエなどと登場人物も増えてきたところで、第14話から突如として現れた妊娠八ヶ月の中年女子な加世さんが、女狩撫とも言うべき存在感で以て、皆んなに大きな影響を与え始めることになる。
大山クンと加世さんの急激、というのか突発的な結婚。ヒネクレ者のトキエが自らの再生を賭けた金粉ショーの旅芸人としてデビュー、同時に金粉パートナーの奥崎との出会い。カオリの或るカミングアウト。不能者となってしまった奥崎の過去の過ち。元、時代劇一座の座長だった居酒屋店主の浜五郎さん。元プロボクサーで寝たきり老人の木内半蔵さんは、まさかの大山クンのプロボクサー宣言をキッカケとしてリハビリに励み、寝たきりからの復活。
皆んな魅力的だ。
非日常? 取り柄はマトモなだけな連中と比べて、あたしたちは劇的な体験をしてると唱えるカオリに対して、エイコは言った。
「リョウなの。アホな弟だけど・・・・・いつも結局はぜーんぶあのコのセッティングだった・・・ってあとで思うの」
とかなんとか言いつつ、当のリョウ本人は飽くまでフラット。

基本的には、朗らか、明るい、お気楽な展開をしつつも、幸せを求めて真剣に生きている人々。時にはキッチリ時代へ異議を物申すことだってある。
「マニュアルだとかマーケティングとやらが、永久に通用すると思ってる。そんな時代は壊れつつあるのに・・・・・・」
広告屋や、トレンド・セッターどもに一発ぶちまかしてやる」
ニコニコ、マイペースのリョウにしたって、たまーには主人公らしく核心を突くこともある。
「しっかり受験勉強して、いい大学出て、一流会社に就職してさ、出世して・・・・・・そんな人生が楽しいわけねーもん」
そうか、やっぱり狩撫麻礼なんだよね〜。

ネガティブな過去を捨て、ポジティブに闘う生き方への転生。或いは、REDEMPTION。
イノセント、天使派、受け容れよう。この何かを・・・・・・。

天使派リョウ
作者: 作・狩撫麻礼、画・中村真理子
発売日:1990年6月1日
メディア:単行本