HIU公式書評Blog

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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】傷を自分の一部にする。『大切な人を亡くしたあなたに知っておいてほしい5つのこと』

 

「金継ぎ」といわれる日本の伝統技法がある。割れたり、ひびができて使い物にならない陶磁器を、愛でるように漆でつないだ後、金粉で装飾を施す。治すというよりは、むしろ傷を強調するような修復方法である。そうして金継ぎされた作品は作成者によっては、元の金額の何倍、何十倍と価値が高まるものもある。

装飾された傷のことを、金継ぎの世界では「景色」と呼ぶ。傷があることを認めたうえで、その傷を愛でる姿にグリーフケアとの深い共通点を感じて、著者は金継ぎを学ぶようになったそうだ。

本書は、大切な人を亡くした方の拠り所として、日本グリーフ専門士協会がインターネットで開催している「グリーフサロン」を紙上に再現したものである。

グリーフとは「喪失体験に伴う悲しみや嘆きとその反応」のことだ。具体的に言うと、愛しい、悲しい、寂しい、つらい、苦しい、悔しい、不安、心配、落胆、空虚感など、複雑な気持ちを心の奥に押し込めた状態がグリーフである。

何年経っても、大切な人を亡くした哀しみに覆われたまま、そこから抜け出せない人は少なくない。心の奥にたくさんの想いを抱えながら、誰にも言えずにいる。そのうえ周りは理解ある人ばかりではなく、不用意に傷つけられることも多い。それを恐れて、ますます自分の殻に閉じこもってしまう。そうしているうちに、自分の世界はどんどん狭くなり、より一層哀しみに覆われる。

ではどうすればいいのだろう?哀しみから逃れる術はないのだろうか?

たくさんの傷ついた人を見てきた著者は、本書でこう伝えている。

哀しみと折り合いをつけるために一番大切なものは、薬でもカウンセリングでもない。哀しみと向き合う勇気と、つながりである。

哀しみから逃れるのではなく、向き合ってみる。大切なのは傷がなかったことにしないこと。無理に隠そうとしたり、なくそうとしたりするのではなく、自分の一部として大切に愛でることで、本当の意味でその人らしく生きることができるのではないか。

そしてそんな方たちをいつでも受け入れることができる居場所を提供したいと思い、著者は活動を続けている。

今哀しみを抱えている方、またその支援者にもヒントを与えてくれる本だと思う。

 

 

【書評】傷を自分の一部にする。『大切な人を亡くしたあなたに知っておいてほしい5つのこと』

 

「金継ぎ」といわれる日本の伝統技法がある。割れたり、ひびができて使い物にならない陶磁器を、愛でるように漆でつないだ後、金粉で装飾を施す。治すというよりは、むしろ傷を強調するような修復方法である。そうして金継ぎされた作品は作成者によっては、元の金額の何倍、何十倍と価値が高まるものもある。

装飾された傷のことを、金継ぎの世界では「景色」と呼ぶ。傷があることを認めたうえで、その傷を愛でる姿にグリーフケアとの深い共通点を感じて、著者は金継ぎを学ぶようになったそうだ。

本書は、大切な人を亡くした方の拠り所として、日本グリーフ専門士協会がインターネットで開催している「グリーフサロン」を紙上に再現したものである。

グリーフとは「喪失体験に伴う悲しみや嘆きとその反応」のことだ。具体的に言うと、愛しい、悲しい、寂しい、つらい、苦しい、悔しい、不安、心配、落胆、空虚感など、複雑な気持ちを心の奥に押し込めた状態がグリーフである。

何年経っても、大切な人を亡くした哀しみに覆われたまま、そこから抜け出せない人は少なくない。心の奥にたくさんの想いを抱えながら、誰にも言えずにいる。そのうえ周りは理解ある人ばかりではなく、不用意に傷つけられることも多い。それを恐れて、ますます自分の殻に閉じこもってしまう。そうしているうちに、自分の世界はどんどん狭くなり、より一層哀しみに覆われる。

ではどうすればいいのだろう?哀しみから逃れる術はないのだろうか?

たくさんの傷ついた人を見てきた著者は、本書でこう伝えている。

哀しみと折り合いをつけるために一番大切なものは、薬でもカウンセリングでもない。哀しみと向き合う勇気と、つながりである。

哀しみから逃れるのではなく、向き合ってみる。大切なのは傷がなかったことにしないこと。無理に隠そうとしたり、なくそうとしたりするのではなく、自分の一部として大切に愛でることで、本当の意味でその人らしく生きることができるのではないか。

そしてそんな方たちをいつでも受け入れることができる居場所を提供したいと思い、著者は活動を続けている。

今哀しみを抱えている方、またその支援者にもヒントを与えてくれる本だと思う。

 

 

【書評】「広告にみえない」ものが広告になる。『広告がなくなる日』

 

広告に対してどんなイメージを持っているだろうか?
広告めっちゃ好きです!みたいな人はあまりいないと思う。むしろ、見たくもないときに見たくもないものを見せられて嫌いだ。と評者は思ってしまう。

そんな嫌われ者とも言える広告に対する、著者の提案と愛情が本書には詰め込まれている。

先に行ってしまうと、タイトルの「広告がなくなる日」というのは、言葉通りの意味ではない。そのままを伝えるなら「広告が生まれ変わる日」となるかもしれない。広告業界は少しずつ変化しているし、また、これからはよりいっそう大きな変化が求められている。

7兆円と言われる巨大な広告産業が、「より良い未来を追求する仕事」になったら、少なからずこの未来はよくなるはずだと、著者は愛情を持って伝えている。

それはつまり、表面的で中身を伴なわない広告はもうやめにして、もっと本質的で意味のあることにお金や労働という資源を投下すべきだということだ。ただの「販促」ではなく、「ブランディング」としての広告へ。そこには「高貴な精神」「高い視座」「優れた美意識」が必要とされる。

そんな悠長なことを言っていては生き残れないぞ、という反論が聞こえてきそうである。けれど逆に、そうした広い視野を持ち、長期的な目でものごとを見ないとこれからの時代は生き残れないのだと著者は伝えたいのだと思う。

”今や終わりを迎えつつあるビジネスの延命措置、ブルシットジョブの典型例”
広告業界はそんな風に言われたままで本当にいいのか、と著者は警鐘を鳴らしているのだ。

そして個人的に、本書を読んでいて嬉しかったのが小説からの引用文が多く使われていたことだ。どうやら著者はかなりの村上春樹好きらしい。感覚的で人間的で情緒的な「何か」を、本書では「文化」「アーツ」と呼んでいる。そうしたものを著者がとても大切にしていることが、本書を読んでいると伝わってくる。

広告業界に関わっているかどうか関係なく、現代のビジネスに少しでも疑問を持つ人は読んでみてほしい。普通の本とは一風変わったしかけもあったりして、新しくて楽しい読書体験ができると思う。

 

広告がなくなる日

広告がなくなる日

  • 作者:牧野 圭太
  • 発売日: 2021/03/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

【書評】哀しみがあなたにもたらすもの。『大切な人を亡くしたあなたに知っておいてほしい5つのこと』

 

著者は、一般社団法人日本グリーフ専門士協会代表理事
初めて聞いた「グリーフ」という名詞。「喪失体験に伴う悲しみや嘆きとその反応」を指すものだとういう。

本書は、日本グリーフ専門士協会がインターネットを介して開催している「グリーフサロン」を紙上に再現したものだ。
五人の遺された人々と、一人のファシリテーターが登場し、月に一度で、タイトル通り五回のサロンが開かれるというものだ。
会話式で進められ、毎章ごとにテーマとワークが一つずつ盛り込まれている。また、登場人物の一人に焦点を当て、合間合間に彼女の主観的な想いも挟みながら、サロンが重ねられていき、「グリーフケア」とはどういうものであるのかを読書に教えてくれている。
著者が実際に出会った人々とのやり取りをベースにしているだけあって、内容は違和感無く読み進められる。また、個々の事例を一つひとつ深掘りしている訳ではないことにも、好感が持てる。
死別や離別により、人にはどんなことが起きるのか。周りの人はどう向き合えば良いのか。恐らくそれは千差万別で、一概には言い切れまいと思うからだ。

本書では、登場人物たちに劇的な変化が起こる訳ではないが、自らに向き合うことと、吐き出すことで、哀しみと折り合いをつけていく。
心の傷にがんじがらめになってしまった人々に、「居場所」を与えるためのもの。それが「グリーフサロン」の存在目的なのだろう。

以前、東日本大震災によって福島から東京へ移転してきた方との対話で、誤った言葉を発してしまったことがあり、その時に、「被害を被った人々に、我々はかける声など持たないのだ」と思わされたことがあった。
それが、本書を手に取った動機だ。
そして、読み進めていく内に、今まで何人かと死別した時のことを思い出した。
私自身はグリーフで悩む者ではないが、それでもやはり死別というものは心に残っているのだ。

 

 

 

【書評】最後にはいつだってテクノロジーが勝利する『ぼくは愛を証明しようと思う。』


恋愛工学。それは男の欲望を実現するための秘密のテクノロジーである。本作は、とある非モテ男子がこの恋愛工学を学び、数々の美女を虜にする恋愛プレイヤーになるまでを描いた物語である。

主人公は26歳のわたなべ。結婚を考えていた彼女に浮気され、ただ性欲を満たすために性風俗に通う典型的な非モテ男子。気分転換にやってきたバーで、初対面の3人の美女を同時に口説くモテ男を目の当たりにして衝撃を受けるが、それが知人の永沢であることを知り、彼から恋愛工学を学ぶことになる。

そこからは怒涛の実践演習の日々。1日で50人をナンパしたり、ラポールミラーリング、イエスセットといった女性を落とすテクニックを会話に織り交ぜたりなど、恋愛工学に基づき正しく恋愛をしながら、確実に女性を落とすテクニックを身に着けていく。そうして非モテ男子のわたなべは、たった1年でモテ男へと変貌を遂げたのである。

非モテ男子時代のわたなべの性格や行動は、驚くほど私とシンクロしていた。そんなわたなべがどんどんモテ男へと変身していく姿に自分を重ね、なぜか自分もモテ男になれる未来が見えた気さえした。しかし恋愛工学の前提として、モテる男はモテるゆえにもっとモテる、というものがある。同時に複数の女性と恋をすることで、さらに女性が寄ってくるというものだ。私はこの部分にどこか違和感を感じた。私と同様、わたなべもその違和感を感じていたようで、結局最後は一途にひとりの女性を愛す、ただの非モテ男子に戻ってしまった。

恋愛は運とスキルのゲーム。愛など必要ない。頭を使って戦略的にプレイしないとダメだ、と永沢は言う。でも、ドラえもんのび太のように、なんの取柄がなくても一途に愛し続ければいつかは報われる。そんな恋愛をつい期待してしまう。私もしばらくは非モテ男子からは脱出できなさそうだ。

 

ぼくは愛を証明しようと思う。

ぼくは愛を証明しようと思う。

  • 作者:藤沢 数希
  • 発売日: 2018/08/26
  • メディア: Audible版
 

 

【書評】1968年8月21日ついにソ連からワルシャワ条約軍がやってきた、改革崩壊までの一部始終『プラハの春 下』

 

元外交官である著者が1968年チェコスロヴァキア日本国大使館在勤中に遭遇した民主化運動「プラハの春」を小説化。上巻は1967年からプラハの春改革前夜1968年3月まで、下巻は改革を進めるチェコスロヴァキアソ連が軍事介入、改革崩壊までの一部始終が描かれている。権力と面子に固執して事実を歪曲する卑劣で野蛮なソ連東ドイツなどの社会主義勢力と、この軍事介入に手が回らずダンマリを決め込むアメリカ。最早、プラハの春の味方は居ない。その中で、ソ連に立ち向かうチェコスロバキアの人々はユニークで大胆に知恵を使ってワルシャワ条約軍を煙に巻く。
軍事介入を冷静に報道したプラハ放送は、ワルシャワ条約軍によって放送局そのものを破壊されたが、地下に潜り放送を再開しソ連による占領を海外へ発信。プラハ市民は軍人への直接対話によりワルシャワ条約軍を翻弄していく様は痛快である。

上巻に引き続き、日本国大使館員の主人公堀江とDDR東ドイツ)人反体制派活動家であるカテリーナとの恋愛パートが本書の大半を占めていることは残念であるが、なぜソ連が崩壊したのか、マルクスレーニン主義スターリン主義の違いは何かがとてもよく理解できる。社会主義の歴史を学ぶにはうってつけ。

自由が当たり前と思っている私たちは何て幸せなんだろう。今の自由は多くの人々が犠牲となってる上で享受できていると実感。歴史の奥深さを感じることができる一冊である。

 

プラハの春 下 (集英社文庫)

プラハの春 下 (集英社文庫)

  • 作者:春江 一也
  • 発売日: 2000/03/25
  • メディア: 文庫
 

 

【書評】パクリではない、オマージュだ『珍夜特急1―インド・パキスタン―』

 

深夜特急』では無く『珍夜特急』、作者は沢木 耕太郎では無くクロサワ コウタロウ。決してパクリでは無いオマージュ的な作品。本家はバスであるがこちらはバイクでユーラシア大陸を横断するインド・パキスタン編。バイクなのでなぜ特急なのか分からないが。

"何か面白いことがしたい"それもでかいことと筆者が思った1996年の夏、"そうだ!バイクだ。バイクでこの大陸を横断しよう。これならだれもやったことがない"はずだと思い実際に行ってしまったほぼノンフィクションのお話し。

本家『深夜特急』をKindleで読もうと思ったら、間違って本作品をダウンロード。
そのままお蔵入りにする所だったが、暇つぶしに読むものがこれ以外に無かったので、仕方なく読む。文章は洗練されていない。でもその分、素人ならではの生々しい描写が続き、思わず一気読み。

旅の出発地はインドのコルカタ。なぜコルカタなのか?読むと「そうだったのか!」と合点は行くがどうでもいい。こんなくだらない事が本書には散りばめられているのも面白い。
コルカタでは自分のバイクがいつ受け取れるのか分からない、声をかけられた人にぼったくられ、気を付けてもぼったくられる様はバックパッカーあるあるで共感。トラブルだらけなのに、困った時に思いもしなかった善意に救われ、私の気持ちもほっこり。

パキスタンのラホールでは、宿泊先の主人に対して"もしやこの主人はホモではなかろうか"と思い、それが確信に変わった後の筆者の行動に笑いがこみ上げる。インド・パキスタンの旅を通じてだんだん逞しくなっていき続きが気になる。

本家よりライトな感じで、Kindle Unlimitedでも読めるので、暇つぶしにはもってこいの一冊かも。

 

 

【書評】世界に影響を与える人になる『死なないように稼ぐ。』

 

成功への唯一の近道は、地道に継続することだと著者は言う。実際に著者自身も、どんな状況下においてもやると決めたことを当たり前に継続させているそうだ。しかし、新しいものに飛びつく人は多いが、何事においても長続きせず、継続出来る人はなかなかいない。

評者も所属する堀江貴文イノベーション大学校(HIU)ではメンバーがどのように行動し活躍しているのか、本書を読むことにより明らかになる。また、先日はクラブハウスでも説明会が行われ、HIUメンバーからの情報により評者を含め多くのメンバーが一緒に聴いていた。

しかし、活躍しているメンバーが実体験を語っても、参加者からの質問は「私なんかが入会して大丈夫でしょうか?」「やりたいことがないんですけどいいのでしょうか?」といった類のものが多く、とてもたくさんの人がHIUに関心を示しているものの、入会を躊躇していることにとても驚いた。何事も自分で体験しなければその面白さは永遠に実感できない。迷っている場合ではないのだ。

著者が関わることで評者が今後楽しみにしていることは、すし屋をエンタメ化した「すしミュージカル」だ。これはHIUの定例トークイベントで初めて聞いたのだが、それが、現実化していくところを目の当たりにすることは面白い。

毎回ゲストが来るたびにその人の専門分野のアイディアが加わり、実現に向けた詰まった内容が聞けることはとても楽しみだ。特に評者はミュージカルがとても好きだが、日本のものは著者が主演、プロデュースし、HIUメンバーも参加する「クリスマスキャロル」以外は観ていないため、今後の「すしミュージカル」にも期待感が湧く。

このようにメンバーへ次々と面白いことを投げかけてくれる著者は、普段メンバーの前では割と真面目な面しか見せないが、合宿などみんなと長い時間を共有すると、えー?と思うユニークな一面を垣間見せる。いろんな発想を巡らせられる著者は、本当はかなり面白い人なのだと思う。 

人々が生きづらくなったと思われている現在。本書では、そのような状況においても柔軟に身をこなし、世の中の逆境に惑わされず、自分の人生を楽しく過ごす方法が書かれている。

 

 

【書評】現代の相対的な真理は、すでに我々が二千年以上前に通過しているっ!! 『史上最強の哲学入門』


本書では「絶対に真だと言える理想の何か」を追い求めた、哲学者達の戦いの歴史が解説されている。
真理の「真理」、国家の「真理」、神様の「真理」、存在の「真理」の全四ラウンドの激闘が観戦可能である。

評者一押しの哲学者はデカルトだ。
全てを疑い、最終的に疑う自分を疑った事で、疑う自分は確実に存在するという考えに至った。
疑う範囲をどんどん小さくしていき、点にまで研ぎ澄ました、正に求道者だ。

また、エピクロス派の「気持ちいいことをして、楽しく生きよう」という快楽主義が印象に残った。
快楽を貪るのではなく、日常に喜びを見つけようする思想は現代でも通用するはずだ。

著者は漫画『グラップラー刃牙』の大ファンだそうだ。
カバーにも板垣恵介氏による劉海王似のイラストが使用されている。

真理のために毒を飲む必要はないと懇願する弟子達に、ソクラテスはこう言ったかもしれない。
ワシを愚弄する気か!!

 

史上最強の哲学入門

史上最強の哲学入門

  • 作者:飲茶
  • 発売日: 2016/08/05
  • メディア: Kindle
 

 

【書評】ソロメオの夢。正しい労働とは?『人間主義的経営』

 

著者のブルネロ・クチネリ氏は、高級カシミヤ製品メーカーの創業者である。
1978年に創業したブルネロ・クチネリ社は、現在は紳士服、婦人服、子供服から雑貨、アクセサリーなど総合的に展開する世界最高級のアパレル企業に成長しており、2012年にはミラノ証券取引所に上場、2019年の売上高は、日本円にして770億円、営業利益は105億円、財務内容も磐石という大企業となっている。
さそかし合理的な経営をしているのかと思えば、決してそうではない。

人件費の高いメイド・イン・イタリーにこだわり、全世界137店舗で販売されている製品は、手作業の職人技で作られている。
「人間の尊厳を守ること」を経営の目標に掲げ、ブルーカラーとホワイトカラーの区別なく世間の水準を上回る給与を支給する。
本社を置くイタリアの片田舎の小さな村であるソロメオ村の城、劇場、工場など、使われていなかった施設を復旧若しくは再利用する。
若者のために、有給で学べる職人学校を建てる。
図書館を作り、ぶどう畑を興し、公園や庭園を整備する。
およそ効率的とは言えない様な投資を行なっているこの会社が、どうして高収益を得ているのか。
贈与を続けることによって収益を上げる。それは狙って行なわれたことではない。
こんなに強く美しい会社が世の中に生まれたのは何故か。

本書は、幼少期から現在までを、著者の回顧録の形で綴られている。
それは牧歌的なほど古めかしい一面もあるし、人間がお互いに差別を捨て認め合うことの重要性を訴える様な、人としての根源を説く一面も見せる。
一見、会社経営とは無縁の様な内容が語られていくが、いずれその全てが、題名である『人間主義的経営』を花開かせていくのだ。

そして、著者を支えるのは古き哲人や賢者達の残した言葉の様だ。
私などは、『孫子の兵法』や古事、或いは松下幸之助などの経営者達の考え方などを辿ることで経営の戦術を学ぼうとするが、本書の著者はそうではなく、哲学を以って考え、判断し、人間のための資本主義を目標に掲げ行動したのだ。

人間主義的経営
作者:ブルネロ・クチネリ
発売日:2021年4月1日
メディア:単行本