広告に対してどんなイメージを持っているだろうか?
広告めっちゃ好きです!みたいな人はあまりいないと思う。むしろ、見たくもないときに見たくもないものを見せられて嫌いだ。と評者は思ってしまう。
そんな嫌われ者とも言える広告に対する、著者の提案と愛情が本書には詰め込まれている。
先に行ってしまうと、タイトルの「広告がなくなる日」というのは、言葉通りの意味ではない。そのままを伝えるなら「広告が生まれ変わる日」となるかもしれない。広告業界は少しずつ変化しているし、また、これからはよりいっそう大きな変化が求められている。
7兆円と言われる巨大な広告産業が、「より良い未来を追求する仕事」になったら、少なからずこの未来はよくなるはずだと、著者は愛情を持って伝えている。
それはつまり、表面的で中身を伴なわない広告はもうやめにして、もっと本質的で意味のあることにお金や労働という資源を投下すべきだということだ。ただの「販促」ではなく、「ブランディング」としての広告へ。そこには「高貴な精神」「高い視座」「優れた美意識」が必要とされる。
そんな悠長なことを言っていては生き残れないぞ、という反論が聞こえてきそうである。けれど逆に、そうした広い視野を持ち、長期的な目でものごとを見ないとこれからの時代は生き残れないのだと著者は伝えたいのだと思う。
”今や終わりを迎えつつあるビジネスの延命措置、ブルシットジョブの典型例”
広告業界はそんな風に言われたままで本当にいいのか、と著者は警鐘を鳴らしているのだ。
そして個人的に、本書を読んでいて嬉しかったのが小説からの引用文が多く使われていたことだ。どうやら著者はかなりの村上春樹好きらしい。感覚的で人間的で情緒的な「何か」を、本書では「文化」「アーツ」と呼んでいる。そうしたものを著者がとても大切にしていることが、本書を読んでいると伝わってくる。
広告業界に関わっているかどうか関係なく、現代のビジネスに少しでも疑問を持つ人は読んでみてほしい。普通の本とは一風変わったしかけもあったりして、新しくて楽しい読書体験ができると思う。