元外交官である著者が1968年チェコスロヴァキア日本国大使館在勤中に遭遇した民主化運動「プラハの春」を小説化。上巻は1967年からプラハの春改革前夜1968年3月まで、下巻は改革を進めるチェコスロヴァキアをソ連が軍事介入、改革崩壊までの一部始終が描かれている。権力と面子に固執して事実を歪曲する卑劣で野蛮なソ連や東ドイツなどの社会主義勢力と、この軍事介入に手が回らずダンマリを決め込むアメリカ。最早、プラハの春の味方は居ない。その中で、ソ連に立ち向かうチェコスロバキアの人々はユニークで大胆に知恵を使ってワルシャワ条約軍を煙に巻く。
軍事介入を冷静に報道したプラハ放送は、ワルシャワ条約軍によって放送局そのものを破壊されたが、地下に潜り放送を再開しソ連による占領を海外へ発信。プラハ市民は軍人への直接対話によりワルシャワ条約軍を翻弄していく様は痛快である。
上巻に引き続き、日本国大使館員の主人公堀江とDDR(東ドイツ)人反体制派活動家であるカテリーナとの恋愛パートが本書の大半を占めていることは残念であるが、なぜソ連が崩壊したのか、マルクスレーニン主義とスターリン主義の違いは何かがとてもよく理解できる。社会主義の歴史を学ぶにはうってつけ。
自由が当たり前と思っている私たちは何て幸せなんだろう。今の自由は多くの人々が犠牲となってる上で享受できていると実感。歴史の奥深さを感じることができる一冊である。