元外交官である著者が1968年チェコスロヴァキア日本国大使館在勤中に遭遇した民主化運動「プラハの春」を小説化。上巻では1967年からプラハの春改革前夜となる1968年3月までを事実とフィクションを織り交ぜながら緊迫感のあるタッチで描かれている。
文庫本の内容紹介に"国際ラブ・ロマン"とある通り、チェコスロバキアの首都プラハにある日本国大使館員の主人公堀江とDDR(東ドイツ)人反体制派活動家であるカテリーナとの恋愛小説でもある。
数回目の再読、最初に本書を読んだのは2000年。この改革運動が起こったプラハという街をどうしても見たくて、日本からウィーン経由でベルリンへ、旧東ベルリンのベルリン東駅から列車でプラハに向かったのは翌年の春だったことを思い出した。
個人的には堀江とカテリーナ、日本国外交官とDDR元ドイツ社会主義統一党員、ふたりが愛に苦悩するシーンは正直イマイチであるが、実際の史実が話の中心になってきたあたりから俄然面白くなる。
好みの分かれる一冊であるが当時の社会主義がどのようなものであったかがよく理解できる。当時は民主主義vs社会主義の冷戦時代、独裁色が強くなる歪んだ社会主義を「人間の顔をした社会主義」に変えるためにソ連を始めとする共産党と闘うチェコスロヴァキア共産党と改革を主導した第一書記ドプチェク、それを支えたチェコスロヴァキアの人々の危機感と変革を求める姿勢、日本でこのような状況になった時、冷静に変革を求めるという事ができるのだろうか?と考えてしまった。