HIU公式書評Blog

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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】人生なんて回転寿しみたいなもん『どこでもいいからどこかへ行きたい』

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旅というのは非日常、計画の外を求めてするものだ。それなのに、その旅をきちんと計画を立ててするというのは、ちょっと衝動を社会に飼い慣らされすぎじゃないか?そんなに自分をうまく管理できるなら、そもそも旅になんか出なくていいのでは?

著者が旅に出るときはいつも突然だ。できるだけ誰にも言わずに一人でいきなり出かける。

行くあてはないけど家にはいたくない
一人で意味もなくビジネスホテルに泊まるのが好きだ
スーパー銭湯があれば戦える
夕暮れ前のファミレスで本を読みたい
街なかに居場所がもっとあればいい
小笠原諸島で何もしなかった
京都には世界の全てがあった

本書の目次にはこんな言葉が並ぶ。
なんて力が抜けていて、魅力的な言葉なんだろう。

評者は気付くと、ゆるゆるだらだらした、自分を肯定してくれるような本ばかり読んでいる。急かしたり、何かを押し付たりしないこういう文章が好きだと改めて気付かされる。

著者は自身のことをどうしようもないダメ人間のように書いているが、文章の端々から彼の頭の良さが伝わってくる。周りに流されず、自分の時間軸で生きている感じがする。ゆるーい文章の中にしれっと、人生における本質的なことが書かれていたりするから、読み進めるのをやめられなくなる。

例えば、回転寿司へ行くだけでも気付きがあったりする。何かを選択するのが苦手だという著者。回転寿司では、「これが食べたい!」という強い意志を持たなくても、なんとなく流れてくるものを見ていれば美味しそうなものは結構いろいろある。自分ではあまり頼まないものが流れてきて、「これもよさそうだな」とか思って食べてみるのも楽しい。

人生だってそんなものかもしれない。人は自分の生き方を全部自分で決めるわけじゃなくて、たまたまそのとき目の前に出てきたものに左右されて生きていくことが多い。でも多分、それでいいのだ。そうしたランダムさこそが人生の醍醐味なのだ。

本書を読むと、「ああ、こういう考え方もあるのか」と、少しだけ生きるのがラクになるかもしれない。ダメ人間にも、ダメ人間のことが理解できないエリート人間にも読んでほしいです。 

 

 

【書評】ガンダム誕生にも関わったSF小説。『宇宙の戦士』

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ヒューゴ賞受賞!と、高らかに表紙に謳われ続けている本作の評価は高い。一般には、『スターシップ・トゥルーパーズ』というしょうもないハリウッド映画の原作と言えば分かり易いかもしれない。

主人公ジョニーは、高校を卒業するに際し、両親の反対を押し切り、親友に誘われるままなんとなく軍に志願する。
適性検査の結果、もっとも過酷な「機動歩兵」に配属され、以後はキャンプで厳しい訓練を受ける。
そんな最中、蜘蛛に似た宇宙生物と人類との間に紛争が勃発し、やがてジョニーたちの機動歩兵部隊も参戦する。

という様な粗筋だが、戦闘シーンがメインという訳ではなく、主人公ジョニーが、地獄の訓練と教育を受け、何度も除隊を考えながらも、ひ弱な新兵から職業軍人を自ら選ぶ様な男に成長していく様を骨太に描いている。
軍隊の訓練を描くということで、暴力肯定的な内容となってもおり、当時は騒然たる議論を呼んだらしいが、私の印象では、むしろ「戦争は絶対的か?相対的か?」という教官の問いかけに対して、ジョニーが答えに窮するなどといったイデオロギーに関する描写が興味深かった。

機動歩兵は、パワードスーツという強化装甲服を着込む。
着衣のように装着して体全体で操縦するというもので、日本版の挿絵に登場するパワードスーツのデザインは、スタジオぬえという有名なSF軍団の宮武一貴氏によるもので、これがSFファンに衝撃を与えた。
機動戦士ガンダムの製作にあたって、「ロボット」という呼び名を嫌った富野由悠季(当時は喜幸)監督は、この小説を知って、「モビルスーツ」という概念を思い付いたのは有名な話だ。
後年のSF作品に多大なる影響を与えた一作である。

 

宇宙の戦士

宇宙の戦士

 

 

【書評】才能を決めるのは自分次第!『才能の正体』

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「あの人は立派に結果を出して、自分と違って才能があるわ」と何気なく出る一言。[才能]とは一体何なのか?、そしてそれは誰しもが手に入れることができるものであると筆者は伝えています。

印象的に残った点として一つは、結果よりもプロセス(成長)を大事にするということです。何かを始め経験値が増え、成長を実感し、能力として身に付く、そして自分に自信がつく。結果に目がいきがちな自分にとっては新鮮なもので目から鱗でした。

そしてもう一つ、とても大事なことに気付かされました。それは、才能という可能性を決めるのは過去の自分ではなく今の自分だということです。過去を振り返って自分は駄目だと蓋をするか、前に進むために少しずつでもチャレンジをするか、大きな違いですね。

アウトプットが苦手な自分にとって、一歩進む勇気をくれたのは、間違いなくこの本のお陰です!

前に進もうとする人の背中を優しく押してくれる素晴らしい作品ですので是非、御一読下さい!

 

才能の正体 (幻冬舎文庫)

才能の正体 (幻冬舎文庫)

 

 

【書評】1人5000円あれば大丈夫。『売上が上がるバックオフィス最適化マップ』

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経費管理、退勤管理、名刺管理、給与計算、コミュニケーション。いまだに分かってはいながら手書きでやっている人はいませんか?これらのツールを全部入れても月1人5000円です。いや、むしろ儲かるかも。

ITを導入すれば楽になるのは分かるが、
「コストがかかるしなぁ」
「導入しても使いこなせるかなぁ」
「余計な仕事が増えるんじゃ」
などが理由でITを導入できていない人はすぐに読んでください!。

IT導入はコストでなく、投資であり仕事が楽になる仕組みです。手間が減った分残業代が減るし、残業がなかった人は他のことをする時間が生まれるし、出張も減り経費も削減されます。

本書ではそのために何を導入すれば良いか、どんな問題が生じるか、サービスにどれくらいお金がかかるかとともに紹介がされているので、本書を読めば誰でもITを導入できるでしょう。

これからは高齢化で人口も減っていく、まだ手書きでやっているような業務が多くある会社はさっさとITを導入しましょう。人が減っていく社会ではIT導入が必須です。

 

 

【書評】はい。これでお仕舞い。『日本以外全部沈没 パニック短編集』

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ここのところビジネス書ばかりで、何年も小説を読んでいなかったのだが、突如40年振りに筒井康隆が読みたくなった。

しかし、この人の捉えどころの無さと言ったら半端無い。スタイルが作品毎で全く変わるので、読み出すまでどんな作風の話なのか分からないのだ。
だから、巻末の解説を仰せつかった人達のお仕事も、大抵はお粗末な結果に終わる。
大体、筒井康隆の代表作ってなんだろう?『時をかける少女』?『パプリカ』?『七瀬シリーズ』? それすらよく分からない。

そんな訳だから、私にちゃんとした解説が出来る筈もない。ここでは精々本書の表題作の由来でも書いて、お茶を濁すこととしよう。
丁度Netflixで、『日本沈没』が製作されているらしいし、この書評のアクセスが上がるかも知らず、誠に丁度良い。

日本以外全部沈没』は、『日本沈没』のヒットを祝うSF作家たちの集まりで、冗談で星新一が題名を言い出し、作者の小松左京の許可を得た上で筒井康隆が執筆した、と言う由緒正しい公認パロディーなのだ。
そして、あろうことか第5回星雲賞短篇賞まで受賞してしまい、授賞式に於いて「『日本沈没』は完成まで9年かけたのに、筒井氏は数時間で書き上げて賞を攫ってしまった」と小松氏にコメントさせたという。
また、2006年には、ほら、私のお知り合いの、例のどうかしている河崎実監督によって映画化され、筒井氏も出演している。
映画化に関しても、小松氏の許可までちゃんと取っており、こちらも正統派(?)のパロディー作品だ。

さて、私は、ガキの自分からSFとハードボイルドが好きだった。小中学生の頃は、眉村卓星新一やら筒井康隆が流行っていた(様な気がする)ので、その辺りの作品を読み漁っていた。但し、金も無いのでもっぱら図書館通いだった。
だから蔵書もしていないし、読了したらそれっきり。
にも拘らず、強烈に覚えているのは、七瀬シリーズの最終巻『エディプスの恋人』の読後のモヤモヤ感と、とんでもない投げ捨て感満載のオチが強烈で衝撃的だった・・・あ、えーと、題名が分からない。
オチの一文と「時代小説」で検索してもまったくヒットしない。
なにしろ多作のこの人、見当をつけてポチポチポチとして幾つか読んでみても、一向に辿り着かないでいる。
もう暫くは、捜索が続きそうだ。

 

 

【書評】個人の価値は、遊ぶことによって生まれる『スマホ人生戦略~お金・教養・フォロワー35の行動スキル~』

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スマホは、思考と行動を加速するためのツールだと著者は言う。本書では、情報、ビジネス、プレゼン、服装、英語、健康など幅広いジャンルにわたりスマホを使い、人生を豊かにするための実践法が書かれている。

評者は本書の発売を楽しみに待っていた。なぜなら、評者自身まだまだスマホを戦略的に使いこなせていないと感じているからだ。

スマホを使い、世界中のどこにいても仕事ができる。遊びが仕事になる。そんな世界はとてもワクワクする。また、好きなことをやる。それが成功の最強ルートだそうだ。

自分の現在の仕事は、最も長く携わり、多くの人々と関わるため、面白味はあるが、本当に自分にとってワクワクするのか。また、仕事に行くのが待ち遠しいかというと、そうでもない。それは、今一度自分の人生をきちんと考えるべき時なのだろう。

先日、HIU(堀江貴文イノベーション大学校)の合宿に参加した。前回の屋久島・種子島合宿は、自宅からの行程がかなり複雑で時間がかかるため参加しなかったが、やっぱり来て良かったと言うのが、率直な感想だ。また今回はオプションにより、合宿とは思えないほど優雅な時間を過ごすこともできた。

さらに、いつも凄いと思うことは、主宰者である堀江貴文氏が他の誰よりも先頭をきって全力で遊び、楽しんでいるところだ。それを見るたびに自分の遊び方は、まだまだ足りないなとつくづく感じる。

合宿は様々な遊びのコンテンツが満載だが、もう一つの魅力は、著者と直接話しができるところだろう。毎月の定例イベントの懇親会では、メンバーは、他愛もないことで著者に話しかけることを止められているため、話しをする機会はあまりないが、合宿では、それが一つのコンテンツになっている。

例えば、今回初めての経験であったが、著者自身が夕食時に各テーブルを回り、参加したコンテンツについて話しをしたり、恒例の「スナック堀江」では、一人一人に好みを聞き、カクテルを作ってくれるのだ。

そんなちょっとしたやりとりも、非常に楽しいひとときだ。著者は、非常に頭がいいので、どんな話題でも話しが面白い。また、非常に驚くところは、著者自身もお酒を楽しみながら作ってくれているにも関わらず、とても味覚が正確なところだ。

評者は、普段からお酒をあまり飲まないので、その辺のところは敏感なのだが、お酒を飲んでも味覚が変わらないのは、さすがにお酒をかなり熟知しているからなのだろう。

本書には、スマホを使い情報感度の高い記事を絶え間なくインプットし、それをアウトプットすることが最も重要だと書かれている。それらを簡単に実行できるのがHIUなのだ。

堀江貴文イノベーション大学校 (HIU)
http://salon.horiemon.com/

 

 

【書評】歳をとることを恐れる人ほど、老化しやすい!?『脳が老いない世界一シンプルな方法』

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不安が起きるとき、そこには必ず、対象についての無知がある。老いるとはどういうことかをよく知らないから、老いの恐ろしさが水増しされるのだ。

身体と脳が老いていくときのメカニズム、身体と脳のエイジングを防ぐ方法、老いにどうやって向き合っていくかという”心構え”。本書は、おおまかにこれら3つのテーマで構成されている。

なかでも衝撃だったのが、「老化に対して恐怖感を抱いている人ほど、老化しやすい」という事実である。

大変皮肉なことに、歳をとることを恐れる人、つまり、老化に対してネガティブなステレオタイプを持つ人ほど、老いやすいというデータがあるそうだ。

ここで、長寿の鍵となる”テロメア”について少し説明しておきたい。私たちの染色体は、二重らせん構造をした遺伝子が寄り合わさってできている。染色体がほどけないように、その末端を留めているのが、テロメアである。このテロメアの長さが、老化のバロメーターとなることがわかっている。

そして、ストレスはテロメアをぐっと縮める。いつも「若返りたい、若返りたい」とばかり思っている人は、人生に対する満足度が低く、不幸になりやすい。老いの恐怖にとらわれ続けることは、その人の幸せを損ない、ひいてはテロメアや寿命も短縮させかねないということなのだ。

だからといって著者は、若さを保つ努力を否定しているわけではない。純粋に自分の好奇心やワクワク感に動かされてそれらの行動をとるのが理想だ。それが人生の波を受け入れて、それをサーファーのように乗りこなすということである。

そもそも、私たちは「事実」と「解釈」を混同しがちである。「人はいずれ死ぬ」というのは真実であるが、「人が老いることは醜い」というのは、人間の解釈でしかない。これが強化された結果がステレオタイプである。まず注意が必要なのは、ステレオタイプの大部分は、自分のいる社会や育った文化、家族や友人、教育などに根ざしているということである。

事実として、老化にはポジティブな面がある。なぜその点に気づけないかといえば、ほとんどの人は老化を「身体の現象」としてしか捉えていないからだ。

死ぬまで「内面の老い」の価値に気付かないままの人もいる。30代、ひょっとしたら20代のうちからもっと内面に目を向けられるようになれば、現代人の「歳の取り方」は大きく変わるはずだと著者は言う。

われわれはあるとき外見の加齢変化に気づかされるわけだが、これは一種の知らせ、「内面の成長へと重心を移しなさい」というシグナルなのである。

評者もまた、老化に対する恐怖感から本書を手に取った。アンチエイジングのための具体的な方法を期待していた。もちろん、すぐに実践できる運動や食事法も詳しく書かれている。だが、それよりも根本的な、老化に対するマイナスイメージや考え方に気付き、意識し、それを変えていくというのは、衝撃的であり、思わぬ収穫となった。

老化に対するネガティブイメージを覆してくれる、人生に対して前向きになれる一冊である。

 

脳が老いない世界一シンプルな方法

脳が老いない世界一シンプルな方法

  • 作者:久賀谷 亮
  • 発売日: 2018/09/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

【書評】いかに軌道修正を繰り返して、目的地に向かっていくか。『琥珀の夢 小説 鳥井信治郎 下』

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「やってみなはれ」。鳥井信治郎の愛用語である。著者によれば、三つの意味があるらしい。一つは「やってみなければ何も始まらない」、二つ目は「それで失敗しても構わない」、三つ目が「失敗の中に必ず成功につながる何かがある」。これほど愛情深い言葉があるだろうか。

上巻に続く本書は、サントリーを国際企業に成長させた創業者の物語である。それと同時に、明治、大正、昭和という激動の時代を生きた一人の商人の生涯を綴っている。

二十歳にして鳥井商店を開業した鳥井信治郎
試行錯誤の末に赤玉ポートワインが完成し、売り上げがようやく出始めた頃に、信治郎は次に葡萄酒の何倍も困難なウイスキー造りに挑むことを決意する。

そして周りの反対を押し切って、京都の山崎にウイスキーの蒸留所をつくる信治郎。彼は、きっとあるに違いないと信じる見えない市場に向かって、ひたむきに突き進んでいく。

熟成させたウイスキーが商品になるのには早くて五年、もしかすると十年かかるかもしれない。それなのに建設費だけで二百万円(現在の金額に換算すると十数億円)もの費用がかかり、しかもその間まったく利益を生まない。そんな事業を一人で押し切っていく彼は、いかに不安で、いかに孤独だったのだろう。

夢に向かう信治郎の前には、様々な困難が立ちはだかる。関東大震災、戦争による大空襲、大切な人の死。平和な時代にのうのうと生きている評者には、想像も及ばない。

普通なら生きることを諦めたくなってもおかしくないような困難に遭い、一時は深く落ち込むこともある。だがその次の瞬間にはもう前を向いている信治郎。マイナスを何としてでもプラスにもっていく彼の底力には、驚くばかりである。

成功者というのは、特別な才能をもった人でも、運の良い人でもない。成功するまでやる。それだけである。失敗をものともせず、むしろ踏み台にして、次へ止まることなく進んでいく。

「諦めなければ夢は叶う」とはよく聞く言葉だが、鳥井信治郎の場合、「諦めない」というよりも、「やらずにはいられない」と言うほうがしっくりくる。誰にも止められない。まさに激流のように進んでいくのである。

評者は正直に言うと、企業や経済にあまり関心が持てない方の人間である。好きな小説ならと、本書を手に取った。もちろん企業小説としての側面は強かったが、人間ドラマとしての読み応えも十分であった。働くとは何なのか、商売人としての心構え、そして生きるとはどういうことかを教えてくれる作品である。

 

琥珀の夢 下 小説 鳥井信治郎 (集英社文庫)

琥珀の夢 下 小説 鳥井信治郎 (集英社文庫)

  • 作者:伊集院 静
  • 発売日: 2020/06/19
  • メディア: 文庫
 

 

【書評】いかに軌道修正を繰り返して、目的地に向かっていくか。『琥珀の夢 小説 鳥井信治郎 下』

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「やってみなはれ」。鳥井信治郎の愛用語である。著者によれば、三つの意味があるらしい。一つは「やってみなければ何も始まらない」、二つ目は「それで失敗しても構わない」、三つ目が「失敗の中に必ず成功につながる何かがある」。これほど愛情深い言葉があるだろうか。

上巻に続く本書は、サントリーを国際企業に成長させた創業者の物語である。それと同時に、明治、大正、昭和という激動の時代を生きた一人の商人の生涯を綴っている。

二十歳にして鳥井商店を開業した鳥井信治郎
試行錯誤の末に赤玉ポートワインが完成し、売り上げがようやく出始めた頃に、信治郎は次に葡萄酒の何倍も困難なウイスキー造りに挑むことを決意する。

そして周りの反対を押し切って、京都の山崎にウイスキーの蒸留所をつくる信治郎。彼は、きっとあるに違いないと信じる見えない市場に向かって、ひたむきに突き進んでいく。

熟成させたウイスキーが商品になるのには早くて五年、もしかすると十年かかるかもしれない。それなのに建設費だけで二百万円(現在の金額に換算すると十数億円)もの費用がかかり、しかもその間まったく利益を生まない。そんな事業を一人で押し切っていく彼は、いかに不安で、いかに孤独だったのだろう。

夢に向かう信治郎の前には、様々な困難が立ちはだかる。関東大震災、戦争による大空襲、大切な人の死。平和な時代にのうのうと生きている評者には、想像も及ばない。

普通なら生きることを諦めたくなってもおかしくないような困難に遭い、一時は深く落ち込むこともある。だがその次の瞬間にはもう前を向いている信治郎。マイナスを何としてでもプラスにもっていく彼の底力には、驚くばかりである。

成功者というのは、特別な才能をもった人でも、運の良い人でもない。成功するまでやる。それだけである。失敗をものともせず、むしろ踏み台にして、次へ止まることなく進んでいく。

「諦めなければ夢は叶う」とはよく聞く言葉だが、鳥井信治郎の場合、「諦めない」というよりも、「やらずにはいられない」と言うほうがしっくりくる。誰にも止められない。まさに激流のように進んでいくのである。

評者は正直に言うと、企業や経済にあまり関心が持てない方の人間である。好きな小説ならと、本書を手に取った。もちろん企業小説としての側面は強かったが、人間ドラマとしての読み応えも十分であった。働くとは何なのか、商売人としての心構え、そして生きるとはどういうことかを教えてくれる作品である。

 

琥珀の夢 下 小説 鳥井信治郎 (集英社文庫)

琥珀の夢 下 小説 鳥井信治郎 (集英社文庫)

  • 作者:伊集院 静
  • 発売日: 2020/06/19
  • メディア: 文庫
 

 

【書評】日本にとって第二次世界大戦とは何だったのか。『おじいちゃん戦争のことを教えて』

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著者は、アサヒビール元名誉顧問であり、以前『小が大に勝つ兵法の実践』の書評で、スーパードライを造った男と紹介した中條高徳氏である。
本書は、ニューヨークの高校に通っている孫娘から、或る依頼ごとの手紙が届くところから始まる。
その依頼とは、第二次世界大戦のことについて教えて欲しい、というものであった。アメリカ史の授業で戦争の体験をした人の話を聞き、発表するのだという。著者は、将校を目指した陸軍士官学校就学中に終戦を迎えているのだ。
自分たち以外の立場からの見方、考え方も知るべきだ、というアメリカの学校の方針に感銘を受けると同時に、戦後の歴史教育について思うところも多い著者は、孫娘の願いに応じることとした。
それから、二人の間での手紙のやり取りが重ねられていく。

日本が戦争をせざるを得ない状況に追い込まれた背景。
「太平洋戦争」などというものは存在しない。
戦後行われた東京裁判は、アメリカ一国で無理矢理押し進めたものであって、成立自体に根拠を持たない茶番である。
A級戦犯というものは、「事後法で人を裁く事は出来ない」という国際法を無視した不適法なものなのだ。
など、様々な調査を元にした著者の考えが述べられていく。

第二弾『おじいちゃん日本のことを教えて』や、著書の中で紹介されている『大東亜戦争の実相(瀬島 龍三 著)』なども読み、まったくの事実であるかどうかは別にしても、意外な詳述の連続に、歴史の授業で第二次世界大戦に割く割合が非常に少なかった理由を推し量らされた。
著者自身が言う様に、違う見方の人もいるかもしれないが、読み応えは十分、読むべき意義も十二分にあると思う。
単行本の初版は1998年12月。以後、ロングセラーとなっていることがその証左であろう。

 

おじいちゃん戦争のことを教えて(小学館文庫)

おじいちゃん戦争のことを教えて(小学館文庫)

  • 作者:中條 高徳
  • 発売日: 2002/08/06
  • メディア: 文庫