不安が起きるとき、そこには必ず、対象についての無知がある。老いるとはどういうことかをよく知らないから、老いの恐ろしさが水増しされるのだ。
身体と脳が老いていくときのメカニズム、身体と脳のエイジングを防ぐ方法、老いにどうやって向き合っていくかという”心構え”。本書は、おおまかにこれら3つのテーマで構成されている。
なかでも衝撃だったのが、「老化に対して恐怖感を抱いている人ほど、老化しやすい」という事実である。
大変皮肉なことに、歳をとることを恐れる人、つまり、老化に対してネガティブなステレオタイプを持つ人ほど、老いやすいというデータがあるそうだ。
ここで、長寿の鍵となる”テロメア”について少し説明しておきたい。私たちの染色体は、二重らせん構造をした遺伝子が寄り合わさってできている。染色体がほどけないように、その末端を留めているのが、テロメアである。このテロメアの長さが、老化のバロメーターとなることがわかっている。
そして、ストレスはテロメアをぐっと縮める。いつも「若返りたい、若返りたい」とばかり思っている人は、人生に対する満足度が低く、不幸になりやすい。老いの恐怖にとらわれ続けることは、その人の幸せを損ない、ひいてはテロメアや寿命も短縮させかねないということなのだ。
だからといって著者は、若さを保つ努力を否定しているわけではない。純粋に自分の好奇心やワクワク感に動かされてそれらの行動をとるのが理想だ。それが人生の波を受け入れて、それをサーファーのように乗りこなすということである。
そもそも、私たちは「事実」と「解釈」を混同しがちである。「人はいずれ死ぬ」というのは真実であるが、「人が老いることは醜い」というのは、人間の解釈でしかない。これが強化された結果がステレオタイプである。まず注意が必要なのは、ステレオタイプの大部分は、自分のいる社会や育った文化、家族や友人、教育などに根ざしているということである。
事実として、老化にはポジティブな面がある。なぜその点に気づけないかといえば、ほとんどの人は老化を「身体の現象」としてしか捉えていないからだ。
死ぬまで「内面の老い」の価値に気付かないままの人もいる。30代、ひょっとしたら20代のうちからもっと内面に目を向けられるようになれば、現代人の「歳の取り方」は大きく変わるはずだと著者は言う。
われわれはあるとき外見の加齢変化に気づかされるわけだが、これは一種の知らせ、「内面の成長へと重心を移しなさい」というシグナルなのである。
評者もまた、老化に対する恐怖感から本書を手に取った。アンチエイジングのための具体的な方法を期待していた。もちろん、すぐに実践できる運動や食事法も詳しく書かれている。だが、それよりも根本的な、老化に対するマイナスイメージや考え方に気付き、意識し、それを変えていくというのは、衝撃的であり、思わぬ収穫となった。
老化に対するネガティブイメージを覆してくれる、人生に対して前向きになれる一冊である。