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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】人の一生は重きを負うて遠き道を行くがごとし。『徳川家康』

 

著者である山岡荘八の作品を最初に読んだのは『織田信長』であった。
小学校の社会科があまり得意ではなく(本当は社会科に限ったことではない)、日本の歴史に疎かったため、三十代も半ばにして、日本人としてこれではいかんと思い手に取った次第だ。
読み出す前は、明治生まれの人間の書く小説がそんなに面白い筈もなかろうと、たかを括っていたのであったが然に非ず。ページを繰るごとに、そのダイナミックさと活劇の巧みさに舌を巻いた。
信長を夢中で読み終え、さて、次は?
そこで選んだのが本書である。

なんと全二十六巻。しかも一冊がものすごく分厚い。
そして驚くなかれ。主人公である筈の家康は端っからは出てこない。まったく出てこない。
最初の主要人物は家康の祖父である。当然、次は家康の父の代の話となり、そこで家康の母親である於大の方との夫婦のストーリーなんかも展開される。
やっと家康が生誕するも、赤子に大した物語が起こせる訳もなく、幼名を竹千代と名付けられ、今川家の人質となった都合上、物語は暫し今川義元を中心に展開する。竹千代は、さらに織田信秀(信長の父)の人質へともなっており、この際、既に信長との面識もできていた。

桶狭間の戦い今川義元が戦死し、故郷である駿府岡崎城に帰還した19歳の竹千代は、元服して家康と改名した。
今川義元の次は織田信長、そのまた次は豊臣秀吉へと物語の中心人物の襷が繋ぎられていくなかで、家康は戦国大名として大いに飛躍していく。そして、物語を、つまり戦国時代を動かす主要人物として活躍の場が次第に広がっていくのであった。
なので、前半は大したことも言っていなかった家康も、段々と重々しく貫禄も感じさせる名言が多数発せられる様になってきて、より味わい深くなっていく。
家康のことを、善人として描かれ過ぎているきらいは少し気になるが、主人公であるので、まぁ仕方がないか。
秀吉亡き後、徳川家が豊臣家に対して数々の所業を為すのも、最終的に豊臣家を滅してしまうのも、全て第二代将軍である徳川家忠に依るものにしてしまっているのは、正直のところ「ほんとかなぁ」と言ったところではある。
しかし、そんなことは差っ引いても面白い物語である。
日本の歴史小説で一番は? と問われたら本書をお薦めしたい。


徳川家康
作者:山岡荘八
発売日:1987年10月1日
メディア:文庫本