著者は、大学卒業後、出版業界を渡り歩いた編集者のプロ。
同業界で実績を積んだ後、会社役員を務めた経験を生かして、自分の出版社を立ち上げた女性経営者でもある。
この本は、著者の人生の苦悩と気づき、起業後の活動をまとめたものである。
本書を読んで、心に刺さったところを紹介する。
著者が2008年に大手出版社に転職したとき、年20冊の書籍を外部委託せずに発行していたという。
その頃は、朝5時まで職場にいて、タクシーの中で仮眠をとりながら帰宅し、シャワーを浴びた後に再び仮眠をとってから午後に出社。
夫がいるのに、部屋はぐちゃぐちゃ、リビングの机は常に原稿の束が積み上げられ、散らかり放題だったという。
会社に大きな貢献をし、個人としてもチームとしても何度も表彰を受けた著者。しかし、成功の喜びを感じていた矢先に、その足を止める出来事が訪れる。
血尿が出て通院すると「肝不全の一歩手前」と診断されたのである。
著者は仕事一辺倒の生活を改め、家のことや夫婦の会話を大切にできる働き方に切り替えた。
東京都足立区千住に設立した出版社名前は「センジュ出版」。
起業と同時に開店させるカフェの改装に多くの運転資金を使ったことで、残った資金は本1冊分の制作費だけだった。
自分の報酬はもちろん、多くのことを切り詰めなければならなかったが、税理士や印刷会社、インターン生、カフェのお客さんなど多くの応援者に支えられて、苦難を乗り切った。
出版した本はすべて重版され、中には映画の原作になった作品もある。
長年、出版業界を歩んできた編集のプロの書く文章は言葉選びのセンスが光り、場面ごとの情景が頭に思い浮かぶ小説風のテイストでまとめられている。
そういう意味では、文章力を高めたい人、本を出版したい人の参考になる一冊である。
著者:吉満 明子
発売日:2020年2月10日
メディア:センジュ出版