『間取りと妄想』著者 大竹 昭子(亜紀書房、2017/6/26)
小説家は物語を作るとき、一体どこから手をつけるのだろうか。当然プロットを練るところからか、もっとも見せたいシーンからいきなり書き始めるのか、それとも動かしたいキャラクターの性格を決めるところからなのか。きっと正解はないのだろうが、その中でも本書は異質だろう。
“間取り”を決めてから物語が決まるのだ。
どこかのデザイナーが「制約があるからこそ良いものを生み出すことができる」と言っているのを聞いたことがある。その言葉が正しければ、間取りほど正確な制約はないのではないだろうか。一度その建築物に入ってしまえば、登場人物の動きは全て間取りで記されている空間内に限定される。ハッピーエンドもバッドエンドも全てその中で完結するのだ。物語ごとに登場人物が置かれている状況も、実に多様だ。母から故人の住居の整理を頼まれた女性、男子生徒に対する欲望が強い元高校教師、なんでも一緒の双子の兄弟。絶対的に揺るがない間取りという制約があるからこそ、“それ以外”の一切を自由にできるのかもしれない。
本書は13の物語が収録されており、“間取り”というコンタクトポイントで読み手と物語をよりリアルに繋げている。ここで言うリアルとは、登場人物の場所だ。その建築物のどの部屋からどの部屋に移動しているのか、どこに目線が移っているのかが手に取るようにわかるのは他の作品では味わえない。各物語のタイトルに間取りのイラストが掲載されているのだが、“間取り一覧”という別紙が挟み込まれており、物語と間取りを見比べながら読み進めることができる。
普段意識をしていないだけで、私たちの日々のライフイベントも、自宅の間取りによって阻まれているもしくは生かされていることもある、そう思わせてくれる一冊だ。間取りありきの13の物語、指で登場人物の場所を追いかけながら読み進めてほしい。