時短、時短、時短、と時間効率を意識しても、さして人生もビジネスも変化しているとは思えない。もしそう感じている人がいたら、気付きの多い一冊になりそうだ。
本書は時間の本質について迫り、その上で読者一人ひとりに「さて、あなたはどうする?」と否が応でも投げかけてくるものがある。といっても、そのことイコール「時間を有意義に使おう」とか、時短活用術という話しではない。
まず時間がもつ価値は社会変容と共に変わるものだということを深く理解する必要がある。価値は変っているのだ。例えば「この時代、ますます時間価値が高まっている」というときの時間価値は、自由な時間が手に入りにくい時代、時間そのものの価値が高まっているという意味になる。ところが現代社会はスマホ社会で、自由な時間は人類史上最も手に入りやすい。そうなると時間価値の本質は「あなたのもつ時間の価値を高めるために、何をすればいいのか」ということに変化しているのだ。
その時間で生み出される価値を誰もが問い・問われることに加え、その時間がコンフォートなのかストレスフルなのかでも価値変動する。この真実は一個人がもつ時間(人生)のみならず、経済活動も同様であり、ひいては一個人の時間と経済活動が連動していることも明白だ。
人はいつの時代も「制約」を乗り越えてきた。18世紀は農業革命で食料制約、市民革命で身分や移動の制約を脱した。19世紀は産業革命で生産能力制約を、20世紀は情報革命で情報制約を脱しながら未来に向かっている。そんな中、時間だけは制約が残っている。今のところ1日は24時間で人には寿命がある。
時間を考える時はまず「人にとって時間だけが物理的制約を越えられずにいる」が「それ以外のことは過去から様変わりし、未来に向け変わり続ける」ということが起点になる。
ネットやスマホ端末の登場で、潜在的にそのことに気付き始めた人間は、時間の構成要素(効率、質)に目を向け、中でもいまは時間の質の追求フェーズだ。ひと昔前はワンセットにならざるを得なかった時間と空間の価値は切り離しが始まった(アンバンドル)。今後、この時空価値を再構築し(リ・バンドル)最適化を図る人の満足度・幸福度は高くなり、時空価値の再構築・最適化を図った事業は顧客に歓迎されるビジネスになるだろう。
リ・バンドルする際のポイントについて、事業展開を考える際や個人の人生戦略においてもヒントが満載だ。著者は「選択・移動・交換が可能な商品・サービス」は今後さらに事業価値を高め、一個人は「公私混同」「職住接近」「いつでもどこでもよりも、いまここ」である人が時間価値の高い人になるであろうと述べていて興味深い。
何より大切なことは時間資本主義自体を目的化してはいけないという点に共感する。資本は武器でありどこまでいっても手段なのだ。公私混同であろうが職住接近であろうが、ワークライフブレンドな時間という武器で我々が目指すべき目的は、自分なりの幸せを描いていくことだ。