『かくて行動経済学は生まれり』著者マイケル・ルイス訳渡会圭子(文藝春秋、2017/7/15)
生きるということは、小さなことから大きなことまで、選択の繰り返しだ。朝何時何分の電車に乗るか(それによって人身事故に巻き込まれ遅刻するかしないかが決まる)、ランチに定食とサンドイッチどちらを食べるか、そんな日常のことから、人によっては誰を企業で採用するか、はたまたミサイルを打つか打たないかなど、多くの人の人生を左右するようなことまで、選択は様々だ。
しかし人間の選択はしばしば間違う。本書はなぜ人の判断がデータや事実に必ずしも基づかないで、間違った道を選んでしまうのか、論理的に説明したノンフィクションだ。
「人間は合理的に判断する」という前提ではなく、人間には感情や思い込みなどのバイアスによって間違った判断をする習性があるということを説いた「行動経済学」がどのようにして生まれたのか、二人の天才的な心理学者の研究と人生の軌跡を追うことで解き明かしていく。
主人公の一人はノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン、もう一人はダニエルとともに研究をしてきたエイモス・トベルスキーだ。本書の面白さは、行動経済学がどのようなものか、経済学に関して知識のない私のような文系人間が理解できるということだけではない。二人の共同研究を通じた人間ドラマが何より魅力的で引き込まれるように読み進んでしまう。二人ともイスラエル人だが、イスラエル人として生きた体験が新しい考えを生む下地になっていることも興味深い。単なる行動経済学の理論だけでなく、二人の研究者の人生にある割り切れない感情が、とても人間らしくロマンを感じた。
経済学なんて無機質そうなものに興味がない、普段は小説しか読まないような人もびっくりするくらい心を動かされる一冊だ。