夏のうだる暑さを乗り切る上で画期的な発明に空調服があげられる。ジャケットに付いたファンが服内の空気の流れを作る。人間が出す汗の蒸発を促進し、蒸発に必要な気化熱が放出されることで人の体温が下がり、涼しく感じる。コストパフォーマンスは抜群で環境に与える影響も少ない。その空調服を発明した著者がどういったメカニズムで物事を考えているのか学べるのが本書だ。空調服についてだけでなく、AIやタイムマシンといった科学技術、物理学や数学などの具体例を通じて、独自のアプローチで本質に迫る。
本書を読んで興味深かった内容が、「表面上の価値」・「水面下の価値」という考え方である。私達が普段見ている世界は全体のほんの一部でしかなく、見ていないもしくは見えない部分が圧倒的だ。水面下の価値は不透明な上にいろんな事象が複雑に絡みあっている。その見えない世界を少しでも覗けるように人は思考を繰り返し新しい発見を見つけていく。この発見こそが人々の発展や成長に繋がる大事なキーとなる。
もう一つは、「思考は楽しい」ということだ。思考は発明など高尚な内容でなくても、普段のたわいもないことで行われている。「もっとこうなったらいいのになぁ」という思いがあって、試行錯誤していく。そこには思いもよらない気付きがあり、より考えることが楽しくなる。ネット技術の発達で考えるより、まず調べることが常の現代、自分の頭で考える習慣を増やしていきたい。
空調服の発明はそもそも地球温暖化の防止を目的として、宇宙から見た地球を白くするという思考から始まったと筆者は述べている。漠然とした超スケールの始まりがどういった結果に結び付くのか全く予測できないが、その過程で思考を挟むことで中身が、よりリアリティを帯びたものとなる。改めて考えることの大切さを実感できた内容であった。