以前、非道く状況に追い詰められた時期があった。そんな時に知ったのが、哲学者 中村天風の存在であった。
そのおかげで、それから何年もの間、絶望に屈することなくなんとか生き抜いて来られたというのは決して私にとって大げさなことではない。
天風氏の存在を教えてくれた先輩経営者には、未だ恩を感じて止まない。
中村天風氏は、明治9年に華族に生れながら、軍事探偵つまりスパイとなり満州へ趣き、尋常ではない命がけの体験を積む。
「人斬り天風」と恐れられるが、その後死病を患いアメリカへ密航、さらに欧州へも渡るも体も心も救われることなく、失望を抱えながらの帰国の途上で知り合ったヨガの聖人に誘われ、そのままインドへと向かう。
悩みを重ねながらも修行の末に遂に悟りを開き、病もいつしか消え失せた。
帰国後は実業家として大成するも、或る日一切の地位を投げ打ち、大道説法に身を転じた。
本書は、東郷平八郎、原敬、松下幸之助、ロックフェラー三世など、時代のリーダー達を心服させた氏の名講演を元にした、力に満ちた54項目の人生成功の哲学を綴ったものである。
天風氏は、何をする場合でも、現在恵まれていることに感謝するべきだと説く。
嫌だ、辛いと不平を漏らしていることは、自らをさらなる不遇へと導く罠である。消極的な態度を滅却し、今ある自分の身の回りに感謝して積極的な態度になると、人間の生きる力のすべてが豊富に働きだす。
即ち、体力、胆力、判断力、断行力、精力、能力の六つの力の内容量を豊富にすることとなるのだ。
幸福や幸運は自分が呼び寄せなければ来やしない。積極的な態度をもって実行することだ。
「自分が知って知らずにかかわらず、蒔いたとおりに花が咲く」
あなた方の思い方や考え方が、現在あるがごときあなた方にしていると言うのだ。
また、人間は自ら敵を作りながら生きているのだと言う。
それを改めるために一番先に必要なことは、「他人に好かれる人間にならなければいけない」ということだ。
他人に好かれようと思ったら、何よりも自分があまり好き嫌いのないようにすればよい。真心の親切をもって、自分のことをするときと同じ気持ちで他人のことをしてあげるのだ。
積極的で心の力が勝れば、敵をも味方にすることが出来る。
憎い人があろうはずがない。あなた方がなにか憎らしいことを考えているだけだ。
凡人は敵対し、優れし人は和合する。ケンカするより、仲良くすることをまず考えてみなきゃダメだ。
敵は敵とせずして、敵としてあらわれたものも、みなそれを味方にしうるような心力をもちえるようにすることだ。
大事なことは、常に積極的な思考で挑み、「怒らず、怖れず、悲しまず」という姿勢こそが、正真正銘の心の世界の姿なのだと知ることだ。
そして、この世の中は、苦しいものでも悩ましいものでもない。この世は、本質的に楽しい、嬉しい、そして調和した美しい世界なのである。
悲しいことや辛いことがあったら、いつにもまして笑ってごらん。悲しいこと、辛いことのほうから逃げていくから。
現在感謝でいくと、そりゃもう、一秒一秒が楽しく生きられる。
と、天風氏は語るのだった。
