ストレスの多い現代社会において、心の健康に関する知識を持たずに生きていくことは、戦場に丸裸で突っ込むようなものである。
メンタルヘルスの問題と関わりを持たずに生きていくことは不可能と言えるほどに、この問題は日本社会を侵食してしまっているのだ。
健康についての情報は世の中に溢れている。どうしても、「これだけすれば良くなる!」という極論が人々の耳目を集めやすい。
その点、本書では科学的根拠をしっかりと明らかにした上で、人の健康に本当に必要な基本的なこと、メンタルヘルスについて我々が生きていく上で最低限知っておくべきことが書かれている。
健康における基本的なこと。それは睡眠、食事、運動である。当たり前のことだ。だけど、身近であるがゆえに見過ごされやすく、甘く見るととんでもないダメージをあなたの心身に及ぼす。
中でも、「健康のためなら死ねる」とさえ言うTestosteroneさんがものすごく重要視しているのが、睡眠だ。ハッキリ言って、筋トレより大切だと言い切っている。
なんと、日本人の睡眠時間は先進国の中でワースト1位の短さなんだそうだ。これは社会問題と無関係とは言えないだろう。
そもそも我々は、睡眠を軸に生活すべきである。仕事なんてその次でいい。睡眠不足が身体に与える悪影響を考えると、寝不足は自分で自分を虐待しているようなものだ。
睡眠を削って自律神経やホルモンバランスが崩れると、すべてが一気に狂いだす。精神、肉体、免疫力、集中力、記憶力、文字通りすべてだ。長期的に考えれば、睡眠時間を優先することが絶対正義なのである。
そしてメンタル疾患においては、大事なのは原因ではなくて、今目の前にいる人が本気で苦しんでいるという事実である。
中には他人から見るとまったく理解できないようなケースもある。理解できないからといって、間違っても自分の価値観だけで身近な人間に対して「甘えじゃないの?」だとか「情けない奴だ」なんていう冷たい言葉をかけてはいけない。
例えば、うつ病は「脳の活動の障害」である。脳が誤作動を起こしている状態=身体の病気と同じである、という認識の方が適切なんだそうだ。実際、改善した人にあとで話を聞くと、「あのころは、なんであんなことを考えていたのか本当にわからない」とおっしゃる方は多いそうだ。
つまり、理解できない他人の行動も、「脳の誤作動」である可能性があるということだ。
「人間の脳は完璧ではない」という理解をしておくことが大切であり、理解していれば必要のないことで人を責めることも少なくなるのではないだろうか。
何事においても一番大事なことは、「自分が見ている世界」は「他人が見ている世界」とは異なる、ということをみんなが理解することである。
そしてそのためには最低限の知識を頭に入れておく必要がある。また、想像力を働かせる余裕をもつためにも、日頃から健康に気を使うことは非常に大切だ。
ストレス社会を生きていくために、手元に置いておくと大変心強い一冊である。