昨今、日本では医療技術の発達により、がんの死亡率は減っているが、がん患者数は増えている傾向が続いている。まず、一番の要因は高齢化であろう。
そこで今、注目されいている「精神腫瘍医」という、がん患者とその家族の心のケアを専門的に行っている医者の存在だ。まだまだ日本では認知度が低いが、その「精神腫瘍医」が7名のがん患者とその患者を支える家族との物語を綴られた書籍だ。
皆さんも考えてみほしい。精神腫瘍医というのは、目の前の患者から「つらいです。あと半年の命なんです。もうどうすればいいかわかりません」という思いを打ち明けられ、それに答え続ける仕事である。そう言われて、なんて答えられるか。言葉に詰まらないか。答えられる人は、宗教家くらいじゃないか。そう思う。
がんになるということは、先送りしていた自分の課題に取り組むチャンスといえる。誰もが、病気になることは望まない。だからといって、それによる起こることがすべて不幸だとは言いきれない。死は全ての生物にやってくるものであり、自分の人生を納得いくように生きるにはどうすればいいかを、考えるきっかけを得ることは大きな意味を持つ。
元来、日本人には”お天道様は見ている”という言葉があるように、この世界では自らの行いに対して公正な結果が返ってくる。自分のところで”禍”を受け止めることができれば、残った妻や子供達には”福”がいく。そんなふうに人生はできているのだ。
人は病気になったことによって、生きることを深く考えるようになる。がんは、身体だけでなく心をも蝕み、しかも自分が精神的に混乱していることにも気づかない。とても厄介なものであり、残された時間を無駄なく使いたいと思えば思うほど、何をしたらよいか分からず、すくみあがってしまう。そんな患者の心を解きほどいてくれるのが「精神腫瘍医」の役割なのではないか。と、そう理解させてくれる本書であった。