現代は、人生100年時代だと言われる。そう聞くと、死は自分とは遠いところにあるものだと錯覚してしまう。けれど実際は、誰もが死と隣り合わせにある。
著者は精神腫瘍科医として、がんに罹患された方とそのご家族とともに死と向き合ってきた。本書では、そんな著者の日々の苦悩や気付きが記される。
著者自身、がんセンターでの仕事を始めるまでは「死」というものを考えてこなかったそうだ。けれど患者さんの死と向き合う中で、否応なしに「死」を見据えざるを得なくなった。そうして、ある時著者の中に初めて死生観というものが芽生えた。
死をどう見据えるようになったかというと、「死んだらすべてが終わる」と思うようになった。そして「どうせ終わりが来るんだし、あまりくよくよと考えず思いっきりやればいいじゃないか」という開き直りのような感覚が芽生えた。
それは虚無主義的な在り方と言えるのかもしれない。だが著者にとっては、死を見据えることによる絶望、恐怖を通り抜け、人生を初めて肯定的にとらえることができた瞬間だった。
そうして人生には期限があることを意識すると、自分の心の声に耳を傾けるようになる。けれど日々「しなければならない」ことをしてきた人にとって、「したいこと」をするのは、案外難しい。
そこで著者が提案するのが、会社を辞めるような大きな決断を衝動的にするのではなく、小さなところから自分の心の声を聴いてみること。
昼ごはんに本当に食べたいものを食べる、タイトルを眺めて自分の心が動いた映画を見てみる、ワクワクと心が反応した本を買ってみる。それくらい小さなことで構わない。
心のおもむくままにいきあたりばったり、というのがとても良いそうだ。目的や時間の制限を決めず、自分の心がどこにワクワクするのかを意識することが大切だ。
「死」をなるべく考えないようにする在り方は、現代社会のひとつの病理だと著者は考える。有限を意識することは、「大切な今を無駄にしないで生きよう」という心構えにつながる。死を見つめることはつまり、どう生きるかを見つめることなのである。