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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】大陸雄飛の夢に誘われて。『馬賊戦記』

 

誰からだったかはすっかりポンっと忘れてしまっているが、薦められるまま読んでみたら、これがやたらめったらとんでもなく面白い冒険活劇一大浪漫小説だった。嘘だと思ったら読んでみてちょーだい。
戦前の満州を舞台に、日本人でありながら馬賊の攬把(ランバ・頭目のこと)として、ある時は単身拳銃を取って敵と戦い、ある時は百千の配下部隊を率いて山野を進軍した実在の人物、それが小日向白朗である。
馬賊、少なくとも正統的な遊撃隊の精神は仁狭の一語であると小日向氏は言う。仁は人をたすけ、狭は、命を捨てて人をたすけることであると言われたのだと。
仁侠の徒としての馬賊とは、馬に乗った泥棒の群ではなく、官の権力に対抗して武装せる農民たちの姿である。
小日向氏は、部分的な要約でしかなかった、これまで度々発表されてきた自らに関する書物とは異なり、忠実に網羅的にかつての冒険について書き起こされた本書によって、農民運動の一形態としての馬賊というものが周知されるであろうことを望んだ。

“大正五年。冬もさかりの十二月。小日向白朗はひどいすきっ腹をかかえて奉天停車場のホームにおり立った。年齢より二つ三つはふけて見えるものの、満で数えて十六歳。まだ紅顔の少年である。”
これが、本作の出だしである。
一体何故、そんな日本人の少年が満州などへ独りやって来たのか。
目的は、どこでもいいから、大陸横断の冒険旅行をすることであった。ロマンチックな夢想家が行動力に恵まれると、決定的に彼の人生は泰平無事と訣別させられる。
漠然たる野望を抱いて中国に渡った彼は、或る高級日本軍人の世話になり、北京で生活をしていたが、二十歳を迎えた頃、どうせ蒙古の奥地へ入るのならお国の為に働いてみる気はないかと誘われる。
陸軍機関員、つまり軍事探偵こそ、大陸冒険の王者ではないか。
白朗の胸は躍った。
生まれついての楽天家は、天涯孤独の一人旅に就く馬上の人となった。

旅に出て程なくして白朗は馬賊の一団に捕らえられた。
白朗にとって幸運と言えたのは、山賊、流賊の類いとは一線を画す「正当馬族」の捕虜となったことだった。
「馬族」とは、そもそも日本人によって名付けられたもので、正しくは「遊撃隊」と言うのが名称であり、住民の唯一の保護者たるものであったのだ。
馬族の大攬把に言われるまま、囚われの身から一転、白朗は馬族の一員となった。
畜生以下の扱いである下っぱ暮らしから始まった馬族での生活だったが、性質が元来明朗で人懐っこく、良く働いた白朗は次第に小隊長格の者たちと馴染んでいった。
こんな薄汚いコジキ暮らしより、戦闘に出て恩賞にありついてやる。死んだらなおいいや。
自ら戦に身を投じる道を選んだ白朗は、腕と度胸、それと天運を武器に草原を駆け始めた。

馬賊戦記
作者: 朽木 寒三
発売日:1982年8月15日
メディア:文庫本 

 

 

【書評】大陸雄飛の夢に誘われて。『馬賊戦記』

 

誰からだったかはすっかりポンっと忘れてしまっているが、薦められるまま読んでみたら、これがやたらめったらとんでもなく面白い冒険活劇一大浪漫小説だった。嘘だと思ったら読んでみてちょーだい。
戦前の満州を舞台に、日本人でありながら馬賊の攬把(ランバ・頭目のこと)として、ある時は単身拳銃を取って敵と戦い、ある時は百千の配下部隊を率いて山野を進軍した実在の人物、それが小日向白朗である。
馬賊、少なくとも正統的な遊撃隊の精神は仁狭の一語であると小日向氏は言う。仁は人をたすけ、狭は、命を捨てて人をたすけることであると言われたのだと。
仁侠の徒としての馬賊とは、馬に乗った泥棒の群ではなく、官の権力に対抗して武装せる農民たちの姿である。
小日向氏は、部分的な要約でしかなかった、これまで度々発表されてきた自らに関する書物とは異なり、忠実に網羅的にかつての冒険について書き起こされた本書によって、農民運動の一形態としての馬賊というものが周知されるであろうことを望んだ。

“大正五年。冬もさかりの十二月。小日向白朗はひどいすきっ腹をかかえて奉天停車場のホームにおり立った。年齢より二つ三つはふけて見えるものの、満で数えて十六歳。まだ紅顔の少年である。”
これが、本作の出だしである。
一体何故、そんな日本人の少年が満州などへ独りやって来たのか。
目的は、どこでもいいから、大陸横断の冒険旅行をすることであった。ロマンチックな夢想家が行動力に恵まれると、決定的に彼の人生は泰平無事と訣別させられる。
漠然たる野望を抱いて中国に渡った彼は、或る高級日本軍人の世話になり、北京で生活をしていたが、二十歳を迎えた頃、どうせ蒙古の奥地へ入るのならお国の為に働いてみる気はないかと誘われる。
陸軍機関員、つまり軍事探偵こそ、大陸冒険の王者ではないか。
白朗の胸は躍った。
生まれついての楽天家は、天涯孤独の一人旅に就く馬上の人となった。

旅に出て程なくして白朗は馬賊の一団に捕らえられた。
白朗にとって幸運と言えたのは、山賊、流賊の類いとは一線を画す「正当馬族」の捕虜となったことだった。
「馬族」とは、そもそも日本人によって名付けられたもので、正しくは「遊撃隊」と言うのが名称であり、住民の唯一の保護者たるものであったのだ。
馬族の大攬把に言われるまま、囚われの身から一転、白朗は馬族の一員となった。
畜生以下の扱いである下っぱ暮らしから始まった馬族での生活だったが、性質が元来明朗で人懐っこく、良く働いた白朗は次第に小隊長格の者たちと馴染んでいった。
こんな薄汚いコジキ暮らしより、戦闘に出て恩賞にありついてやる。死んだらなおいいや。
自ら戦に身を投じる道を選んだ白朗は、腕と度胸、それと天運を武器に草原を駆け始めた。

馬賊戦記
作者: 朽木 寒三
発売日:1982年8月15日
メディア:文庫本 

 

 

【書評】教育の裏に潜む人の業(ごう)『いじめの聖域- キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録』

 決して一言では言い表せない複雑に絡み合ったボタンと紐の掛け違い。何故それが生まれるのか、に焦点をあてなければ、この問題は解決しないだろう。
 2017年に自殺をした高校2年生、いじめに悩むメモ。第三者委員会でいじめを認定するも、学校は不服として受け入れを拒否。現在も法廷に両親が提訴(損害賠償と学校ウェブサイトへの謝罪文の掲載を求める訴訟)している。
 両親の「この死を無駄にしたくない、風化させたくない」という思いが、物事を動かしている。いや、そういう声がないと動かない現実なのだ、と本書は述べている。

 私学は公立以上に名声や評判が即に経営に響いてくる。教師の入れ替えは頻繁でなく閉鎖的な職場環境であろう。本書にかかれた学校の対応は遺族側の目線ではあるが、そういった背景を思わざるを得ない。学校としても膨大な対応をしているが、どこか、ん?と思うところがある。例えば読んでいて解せないのが、担任含め現場の先生には当人の遺書にある加害者が知らされていない、ということだ。氏名が分からなければ、個別具体的な指導は出来ない。自殺後の学校としての指導は生徒全体、クラス全員に対する総論のみになっていたのだが、自戒を促すのみで良いのかという疑問は残る。

 人の命は重い。こうなってしまう前の予防策。こうなってしまったあとの再発防止策。そして独自性・自主性のある私立といえども学校教育の公益性・公共性をどう考えるのか、という構造を根本的に解決しないと、我々と我々の作る組織は変われないのではないか、との読後感に至る。

 いじめ防止対策推進法という法律の枠組も出来ているなかでのこの出来事。本書がより多くの人の目にとまり、教育環境を家庭、学校、社会全体が自分ごととしてより良く再構築することが、我々の使命ではないだろうか。

石川 陽一 著
出版社 文藝春秋
出版日 2022年11月10日

 

 

【書評】 その執着を捨てよう!『宇宙から突然、最高のパートナーが放り込まれる法則』

 女性の皆さまへ。タイトル・表紙からして悩める女性向けの本書。「宇宙から突然?そんな大袈裟な」と突っ込みを入れたくなるタイトルに、もしかしたらたいていの女性は眉をひそめるかもしれない。ただ、読みたい気分のとき、つまり少しだけ迷いのあるとき、悩める乙女気分のときにはかなり効き目がある、なかなかグッとくるフレーズも多い、、というのが読んだ実感だ。

 本書の論調は、基本的にはこだわり・執着を捨てることに尽きる。パートナーが浮気をしているかもしれない時。結婚後に恋愛時代と違い上手くいかない時。著者は「引き寄せ」に関する本も多く出しているブロガーである。執着を手放したら知らないうちに幸せを引き寄せられる。分かっちゃいるけど辞められない女性たちは、きっとこれらのフレーズに何度も接することで、いわゆる煩悩を捨てることが出来るだろう。
 例えば何年も付き合っているのに結婚の話が出ない。これは、結婚を焦らず狙わず、見返りを求めず、彼との毎日を楽しく充実して過ごしていれば最高のパートナーが自然に来ると解く。それは彼かもしれず他の彼かもしれない。相手を変えようとしない。そういう人だと諦める。世間一般の常識に囚われない。気にしないと上手くいく。結婚をゴールにしない。。と続く。

 −執着を手放すためには自分で自分を癒やす方法を知る、自分を好きになる、自分を幸せにし、満たし、大事にする−
 宇宙からの放り込み、つまり自然によいパートナーが現れること。それは毎日の生活で自分にきちんと向き合い、満足して生活していれば必ず来るのだ、そう思わせる本である。

著者 奥平亜美衣
発行日 2015/10/21
発行所 株式会社すばる舎

 

 

【書評】もし若い世代なら、この本はどう見える?『人生は20代で決まる 仕事・恋愛・将来設計』

 僕は、非常に気になることがある。何故「もう自分は若くないし、勉強したって頭に入らないよ」という人が多いのだろう。もっと言うと、僕が「年取るのが楽しみ。知識と経験も増えるし、選択肢も広がる。」と言うと、大体の人が口をそろえて言うのが、「若いうちはみんなそう言うんだよ。年取ってみ?そう思わなくなるから」である。何故、「歳をとること=悪いこと」としてとらえている人が多いのだろう、僕はずっと疑問に思ってきた。そんな疑問の中、僕はこの本を読んだのだが、その答えが少しわかった気がする。この本は、いい意味で今の20代に「警告」を促す本である。また、僕の「20代」に対する考え方が深まった本でもある。この本を紹介しよう。

 この本で、まず一番驚いたのが、「今の30代の多くが、若い日々を取り戻したい」と思っていると書かれていることだった。僕としては、今自分がやるべき時に集中したり、逆にこれからを生きるために考えをめぐらす、ということのほうが大切なのに、何故失われた20代に戻りたいのだろう、と考えている。本書でも紹介されているのだが、「思い切り遊べるのは20代のうちだよ」と考えている人が、少なくない。そして、文字通り本当に「遊んで、気づいたら30代」というケーズが多いのではないだろうか。なので、20代にできたことをやらず、結果的に20代を取り戻したい、という心理に陥るケーズがあるのではないかと、僕は考えている。詳しく言うと、この本では、多くの20代の人に、著者がインタビューし、その内容を載せている。「ずーっと実家にこもっている」「友人の家を働かずに渡り歩いている」という例もある。このことから考えるに、20代の中には、「20代を変な方向に考えている(将来設計はまた後で等)」という人が一定数いる。実際に、本書でもこのことは書かれいる。

 この本では、「しっかり将来のことについて考えて仕事につきな」のようなメッセージもある。実際に、著者がそのようにアドバイスしている場面も載っている。だが、僕自身は、本質は別にあると思っている。20代で人生設計するのには早いのだ。これは『THINK AGAIN』というアダム・グラントの本で書かれていたのだが、若いということは、当然知識や経験も浅い。その中で将来を方向付けるのは、視野を狭めるので危ない、というものだ。しかし、この本にある「20代は重要」というのも賛成できる。つまり、20代でどれだけ多くの体験や知識を得られるかどうか、ではないだろうか。計画性の弱点は、視野狭窄をおこし、それ以外のゴールが見えなくなってしまう点だ。なのであれば、多くのことに挑戦して、寄り道をする、というのが、20代においては、かなり大切なことではないのか。そのように、24歳である僕は考えたのだ。

 著者であるメグ・ジェイは。アメリカの心理学者で、数々のクライアントに、アドバイスしてきた。クリニックでカウンセリングもしており、TED talksでは、彼女のスピーチが970万回も再生されたという。現在はクリニックのほか、バージニア大学で教鞭をとっている。

 この本で、20代について、皆さんはどう思うだろうか?特に、僕と同じ世代の人と議論したいものである。

参考文献
メグ・ジェイ(2016~2021)『人生は20代で決まる 仕事・恋愛・将来設計』小西敦子(訳) 早川書房

 

 

【書評】ここまで読書を極めた人はいない!『読書の技法』

 皆さんは、読書で困ったことはあるだろうか?もし困っていたのなら、それはどのような点で困っていたのだろうか?僕自身は、一時期、読書法や勉強法でかなり迷っていた時期があり、その時には、本の内容もあまり頭に入っていなかった。ここで皆さんにお聞きしたいが、そもそも僕たちは、どうして本を読むのだろう。よく子供のころから「本読め本読め」と言われてきた人も多いのではないだろうか?それにしても、何故、大人たちは、本を読めと口酸っぱく言うのだろう。その割には、読んでいない人も案外多い。勉強が役に立たない、という人も多くいる。では、頭では大切だとわかっていたとしても、何故やらないのだろう。逆に、どうしたら、もっと勉強するようになるのだろう。そんな多くの疑問に答えたのが、本書である。著者の佐藤優は、どの程度のレベルの知識を身につければよいのか、どのように勉強すればよいのかを、270ページにわたり、解説している。僕も、一部実践しているところもある。今回は、この本で感銘を受けたところを紹介しよう。

 まず佐藤優は、何故本を読むのか、というところから議論をスタートさせている。つまり、根本のところが分からないと、モチベーションも湧かないからだと思われる。では、彼はどのような理由で読書をすると言っているのか。それは「限られた時間の中で、手っ取り早く知力を身に着けられるからだ」と書いている。そして、「人間は死が確実に運命づけられているから、そのために読書の技法となっている」という。つまり、短時間で多くの知識を手に入れ、活用していくには、どうすればよいのかが、解説されている。ちなみに言うと、僕は速読はあまり勧めていない。じっくり読んでいる。何故なら、読書を通じて何かを考察するには、一定の時間を要し、速く読めば読むほど、内容はなおざりになってしまうからである。著者の速度のやり方は、あくまで参考程度、というのがいいだろう。

 僕が最も感動し、なおかつ僕の考えの下支えとなっているのが、本書の後半にある「数学の勉強法」である。佐藤優が考える数学の勉強法は「数学は体で覚えろ」である。一見すると体育会系のそれと近いのだが、実はなに一つ間違っていない。それに、彼がこのように言うのには、ちゃんとした理由がある。数学は、実践の学問であり、問題を解くことで、理論が頭に入るからだ、というのが彼の考えだ。このように、実践を通じて身に着けることを「テクネー」というらしい。その考えを僕は参考にし、数学の問題を毎日解いている。試してみると本当にその通りで、実際に問題に触れてみることで、初めて公式や定理を理解することができる。ということがあり「体で覚えろ」なのだ。僕はここに「体と頭の両方で覚えろ」と付け加えたい。

 著者である佐藤優は、元外務省主任分析官。現在は作家である。様々な本を出し、講演も行っている。偽計業務妨害罪で有罪判決を受けたものの、現在ではニュースピックスに出演し対談するなど、活躍している。堀江貴文さんとも対談している。佐藤優は、自宅以外にも、本を読むための部屋も用意しており、自宅と仕事部屋のも合わせると、合計4万冊を超える蔵書数を誇っている。

 この本は、まさに読書に対する基礎的な本だ。佐藤優の視点もかなり盛り込まれているため、読む価値がある。僕は、彼のやり方を参照し、ノートを一冊にしている。仕事もプライベートも、この一冊だ。そのほうが、分かりやすいのだ。このように、日常で使いやすい方法も載っているので、ぜひ、ご一読いただきたい。

参考文献
佐藤優(2012~2020)『読書の技法』東洋経済新報社

 

 

【書評】これがすべての勉強の源泉だ!喉から手が出る『独学大全― 絶対に「学ぶこと」を諦めたくない人のための55の技法』

 この本は、一言で言おう。辞書である。独学で何かを習得する人に向けた、勉強法の辞典である。なので、この本は全部読まなくてもかまわない、というのが大前提である。全部読まなくてもいいにしろ、世の中には間違った勉強法があふれかえっている。たとえば、マーカーで教科書に線を引いたり、忘れる前に復習したり、といった具合である。どのテクニックもよく学校や予備校で使われているので、正しいと思われるが、実際には間違っている。しかし、この本では、科学的にも正しいと言われている勉強法が掲載されており、これをいくつか組み合わせることによって、勉強が進むようになっている。僕自身、この本のテクニックを使っていた。また、数学の勉強にこの本にある概念が非常に役立っており、数学の便利さも、この本によて発見できたといっても過言ではない。今回はこの本から、僕が使った、あるいは現在使っているテクニックを紹介しよう。

 まず、この本から学んで即実践したのが、「ポモドーロ・テクニック」と「音読」だ。特に音読は、文章の理解を助ける。自分の声に出すから、内容が自分事になりやすいのだ。過去に書評を書いた『不老不死の研究』も『時間は存在しない』も、一冊音読したのだ。これがなかなか効く。「ポモドーロテクニック」は、集中状態をある程度分散させるやり方だ。具体的には25分は勉強に集中し、5分を休憩に充てる。そして、そのサイクルを繰り返す。それだけだ。かなり手軽なテクニックで、なおかつ作業もスムーズに進むので、便利な勉強法として使っていた。今では、先ほど取り上げた音読のほかに、内容に関することや自分の考えを一人解説するように読んでいる。そして、何も見ないで本の内容をノートにまとめるのだ。これが、効果は抜群だ、というコメントを残したいくらいかなり強力なのだ。

 また、この本の後半に、かなり面白い箇所があったので紹介しよう。以前の書評でも取り上げた数学のことである。数学は日常で使われていると書いてある本は、山ほどあるが、本書はその逆を言っている。つまり、「数学は日常のことに回帰するな。数学で分からなければ数学の中で解決せよ。」というのだ。僕はこれを、チャート式で問題を解いているときに痛感した。確かに、二次関数は日常の直感では理解するのが難しい。しかし、数学では、そのような抽象的な概念を扱っているため、抽象的で分からないことを、数学のルールに沿って説明することができるのだ。そのため、数学の中で数学を解決するのである。そのような、日常では理解不能な点を、数学は「数字と記号」を使った「論理」で説明できることが可能だ。なので、「数学でわからないものは数学の中で片付けろ」なのだ。

 ここまで著者である読書猿は解説しているが、何と本人が子供の頃、読書が大の苦手で、一冊読むのに5年を要していたらしい。勉強も苦手であった。そこで、勉強法の追及をし、今では、論文や書籍をもとにして、ブログで解説しているのである。

 苦手としていた人が勉強を通じて成功している。故に、これを読んでいる皆さんも、勉強を挽回するのは十分に可能なのだ。僕も、この本に助けられなかったら、数学をあきらめているだろう。それだけ、この本は勉強する人間にとっては、必須の書物と言えよう。

参考文献
読書猿(2020~2021)『独学大全― 絶対に「学ぶこと」を諦めたくない人のための55の技法』ダイヤモンド社

 

 

【書評】こうして僕は幸福地獄から抜け出しました『幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない マインドフルネスから生まれた心理療法ACT入門』

 独特なタイトルだろう。幸福になりたいのは、みんな同じである。だからこそ、みんなは幸せになろうとする。理想の恋人を探したり、ケーキを食べたり。幸せになろうということに躍起になっている。その流れに乗ったのだろうか、最近では「ストレスフリー」だの「ポジティブ思考法」といった本が書店に行くと、ずらっと並んでいる。しかし、この本の著者であるラス・ハリスは、「そもそも何でそんなにみんな幸福を追い求めているの?」を問い直したのだ。そして、彼は、多くの人が勘違いしてることを「幸福の神話」として冒頭で紹介している。僕も、実はこの神話に取りつかれていた人間の一人で、この神話が原因で今まで苦しんできたのかと腑に落ちた。今回は、この本について紹介する。

 先ほども書いたように、この本では幸福の神話について書いている。その内容を一言で言い表すと「そもそもみんな幸福であるのがデフォルトとなってるから、そんなに苦しむんでしょ?」である。これを読んだとき、僕ははっとした。「確かにその通りだ」と。つまりはこうだ。まず、「幸福な状態が正常で、それ以外は異常である」と思っている。そして、何か嫌なことにがあると、「これは幸福ではない。故に、悪いことであり、避けなければいけない」と思っているのだ。要は、多くの人はそのような見方を持っているので、苦しんでしまうのだ。だから、幸福のためには感情をコントロールしなきゃだめだ、と思い込むようになってしまうのだ。このように解説している本はそこまでないだろう。第一、世間には「こうすれば幸福だから、みんなそうすべき」という押しつけにも近いものがある。それも苦しむ原因だろう。

 そして、本書ではそのような思い込みを避けて、自分の人生を生きるためにはどうすればよいのかを、240ページほどにわたって、解説しているのだ。しかも、章ごとに実践できるようになっているので、だいぶ読みやすくもなっている。その中で僕が恩恵を受けたのが「自分の価値観を明確にし、それに従うこと」である。僕の価値観は「本を読んだり数学を勉強したり、運動することを通じて、自分を高めることが大切」「勉強が嫌いという人にアプローチして、勉強で世の中を救うことで貢献するのが重要」「なんでも新しいことを吸収して、人生を自分で切り開いていくのは欠かせない」という価値観がある。僕は最近この価値観、信念をもとに行動している。そのようなことを、本書のワークを通して、発見することができたのだ。そのようなこともあるため、この本をぜひ読んでほしいのだ。

 著者であるラス・ハリスは、医師であり心理療法士でもある。自分自身でもこの心理療法をつかい自分の人生を切り開いてきた。この本には、「不安に悩まされたときはチョコチップを5袋たいらげた」なんてエピソードも載っている。そのような点で、多くの人の目線に経っている。かなり共感できることもある。この本は、不安症や心配性なひとには、かなりお勧めだ。
 
 この本は、メンタル面で自分の生活の基盤を作ることができる。読むだけではなく、実際にやる本なのだ。理論は使ってしまったほうが手っ取り早い。ぜひ、本書を通じて、何度も実践してみてほしい。僕も実践している。だからこそ、この書評を書き、本を読み、数学の問題を毎日解いている。

参考文献
ラス・ハリス(2015~2020)『幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない マインドフルネスから生まれた心理療法ACT入門』岩下慶一(訳) 筑摩書房

 

 

【書評】新登場!「早寝早起き」に関する新常識!『最良の効果を得るタイミング―4つの睡眠タイプから最高の自分になれる瞬間を知る』

 

 皆さんは、子供の頃、いやというほどこのセリフを聞いたのではないだろうか?「早寝早起きは三文の徳。体にいいんだからそうしなさい」というセリフを。しかし、これをお読みの皆さんの中には、このように思う方もいるのではないだろうか?「いや、そんなこと言われてもさ、朝はどうしても眠いし起きられないしさ。夜のほうが元気になっちゃうんだよね」と。つまり、「早寝早起きは大切なのは頭ではわかってるよ。それができないから困ってるんでしょうが」という思いである。実際、僕もそうだ。朝は、からっきしだめだ。執筆ならできるけど、朝から集中力が必要な仕事なんてやっても、頭がぼーっとして仕事どころではない。しかし、そんな人を助けるような本が出たのだ。それが、マイケル・ブレウス博士が書いた「体内時計」の本である。今回はそれを紹介しよう。

 まず、この本ではまず体内時計の歴史について紹介している。今まで続いてきた体内時計をぶっ壊した人物について紹介し、その後、自分の体内時計のタイプを診断するページがあるのだ。そう。実は「朝弱いのか強いのかを含む、いつ生産性が上がるのかは遺伝によって決まっている」のだ。博士は、この本で4つのタイプを紹介している。詳しくは本書に譲るが、4つのタイプに分け、それぞれに動物の名前がついている。ちょっとかわいらしい。そのように、みんなになじみ深い形にし、解説しているのだ。そして、何とこの体内時計(概日リズム、またはクロノタイプと呼ぶ)は、性格とも関係しているのだ。この本では、こういうクロノタイプはこのような性格が多いということを説明している。なので、自分の性格と体内時計がセットで知れる、お得な本でもある。
 
 そして、何より、この本では、各クロノタイプごとの生活の組み方を事細かに解説している。つまり、彼の言い分というのは、「世の中は筋トレでどんなメニューをこなすのか、何を食べるのかは論じられているけど、いつやるのかはあまり論じられていない。なので、いつやるかも見極めよう」というのである。実際、僕もこの本を参考に生活を組んでいる。だから、塾の講師をやっているし、午前中に書評の執筆をするのだ。僕は、分析的な作業は夜のほうが圧倒的にパフォーマンスが高い。それもこれも、この本があったからだ。なので、この本は、生活の基盤になるのである。

 そんな本を書いたマイケル・ブレウスは、アメリカ睡眠医学会の認定医である。数々の論文を読み漁り、彼なりのクロノタイプ理論を構築した。メンタリストDaiGoさんのDラボでもたびたび紹介されている。また、テレビ番組でクロノタイプを紹介し、メルマガを定期的に配信している。睡眠に関しては一家言ある人なのである。

 この本は、辞書のように使うことができる。自分のタイプと診断したら、その通りに生活を組んでみるのだ。そのくらい、役に立つ本である。拾い読みするのもおすすめだ。まずは、店頭やAmazonでこの本を買い、タイプを診断し、自分を理解してみてはいかがだろうか?

参考文献
マイケル・ブレウス(2020)『最良の効果を得るタイミング―4つの睡眠タイプから最高の自分になれる瞬間を知る』長谷川圭(訳) パンローリング

 

 

【書評】こうして僕は数学のとりこになりました『東大の先生!文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!』

 

 数学を、皆さんはどのようにとらえているのだろうか?恐らくつまずいたという人が多いだろう。何を隠そう、僕も数学につまずいた人間の一人なのだ。小学校の頃は、算数の学力テストで94点を取ったこともあったが、中学に入ってかなりつまずいた。膨大な量の問題と、一気に複雑となった概念。そして、一定の速度で進むカリキュラム、部活で疲れすぎ勉強に回す余力も残っていなかった。そして、長らく数学を放棄してきた。だが、この本を書店で見つけて、人生が変わった。そこで今回は、「数学がいかに魅力的で、かつ人生において重要か」を熱弁した本を紹介しよう。

 まず、この本で面白いのは、軽く数学史から振れている点である。例えば、「-(マイナス)が何で生まれたの?」とか「そもそも数学って何で生まれたの?」といった点である。つまり、この本がうまいのが、まず読者の「何故」に、好奇心をかき立てるように答えている点だ。僕は塾の講師をしているが、この本の内容を何度も授業で話している。そのくらい、この本は、数学アレルギーの人におすすめの本なのだ。そもそも、「数学は『誰が見ても明らかな客観的な指標を示すために生まれた』学問」であるという、根本から解説している本である。例えば、カーナビが「この先ちょっと行ったら右」なんて案内したら、どうなるだろうか?「いや、ちょっとってどのくらいだよ!」とツッコミを入れたくなるだろう。つまり、数字を含めた数学があるから、僕らの生活を支えてくれているのだ。それを教えてくれるからこそ、この本は読む価値がある。

 そして、もっともこの本が面白いのは、何と中学のカリキュラムをほとんどバッサリカットしているのだ。そして、「中学の数学で本当に大切なのはこれとこれとこれ!」と言う形で解説しているのが、実に見事なのだ。つまり、中学校のカリキュラムは中学生を「これどこに向かってるの?」と迷子にさせるので、すっきりさせる必要があるよね、という理論の下、構築された本なのだ。実に考えられた本である。だからこそ、この本は一読する価値があるのだ。なので、この本を読むと、数学は案外役に立つし、面白い学問なのだ、ということが伝わってくる。僕は、この本を何度も読み直している。

 この本の著者である西成活裕は、東京大学にある先端科学技術研究センターの教授であるが、かなり面白いことをしている。何と、「何で渋滞が起きるの?」というのを数学で研究する「渋滞学」を作った人なのだ。つまり、渋滞を公式化しようと試みている先生だ。更に、高校数学でやる「微積分」の概念を、小学生に理解させている。この先生は、ホリエモンチャンネルにも出演している。ぜひとも、一度見ることをお勧めする。

 僕はこの本をきっけに数学を学び直そうと決め、今では趣味でチャート式の数学の問題を解いている。塾では、数学も教えている。数学が苦手な人でもここまでなれるのだ。その出発点となる本だ。ぜひとも、数学でつまずいた人は、この本を読んでみてはいかがだろうか?

参考文献
西成活裕・郷和貴(2019)『数学の先生!文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!』かんき出版