HIU公式書評Blog

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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】愛しすぎは病気。『愛しすぎる女たち』

 

人生最大の悩み = お金で買えない人間関係、という方は多いのでは。なかでも「彼を全て許し、ひたすら我慢し、情緒不安定になる、愛しすぎている女性」に焦点を当てたこの本。好きになりすぎて尽くしすぎて失恋して、、の繰り返しを悩むそこの貴女!考え方を根本的に変えるきっかけ、まさに神本の一つにもなり得るかもしれない。

その心は、著者が「愛しすぎる女たち」つまり振られても振られても不誠実で未成熟なダメンズにひっかかり、断ち切れないでいる彼女たちの「恋愛依存」を、ずばりアルコール依存症と同等の「病気」と同等にとらえて真っ向から「治療」を促しているところにある。そしてその根本的な原因は、彼女たちの過去、なんと子どものころに遡った愛情不足などからくる、孤独への不安や恐れだと導く。

後段は「愛しすぎ・恋愛依存」病気の具体的な治療方法だ。なぜ執着のとりこになるのか。相談する仲間と自助グループを作り、自分に向き合い、深い問題を自覚し、人を変えることではなくまず自分を救うことから始めていく。あたかもアルコール依存の治療のようだ。そして相手を管理し操縦するのをやめていく。こうして愛しすぎる女たちが自分の人生を歩み出し、成熟した大人になることで、パートナーとの関係やパートナー自体の質もフェアで誠実なものへと変わっていく。

これでもか、と愛しすぎる女たちと愛されすぎる男たちの事例、特徴が書き綴られている。いつも苦しい恋愛パターンにはまる人にとって「愛しすぎ」を自覚し、愛することの苦痛から逃れるきっかけになるかもしれない。
異性に注いできた愛情をまずは自分自身の人生に、と本書は説く。自分は依存していないか?鏡として読むのも良いだろう。

 

 

【書評】変化の速い時代に対応するためのパラレルキャリア『おじさんの定年前の準備、定年後のスタート ~今こそプロティアン・ライフキャリア実践! ~』

 

コロナ渦を遡ること10年前は、スマートフォンの進化や各種SNSの浸透、世界的に進んでいる新しい社会づくりについて人々は予想できていなかった。
コロナの影響を受けて各種サブスクリプションサービス、オンラインミーテイングツールZoomやUber Eatsの出現など世の中の変化はさらに加速したといえる。
つまり、この先10年、世界はさらに速いスピードで進化を遂げて今までのセオリーが通用しない形態になることが予想される。

一方、巨大企業は「組織を守る」ことが優先される傾向にある。つまり、失敗しないことが求められ、新しいモノを取り入れ挑戦することに消極的なのである。
さらに、50~60代の男性は「部下の前で失敗したらどうしよう」「〇〇を知らないことが‥‥」といったように新しいことに挑戦したがらない傾向がある。
つまり、便利なモノを見過ごして、自分は現状に留まる傾向がある。

社会や時代が進化しているなか、現状維持することは衰退しているのと同じ。
そんな困った状態に陥らないために著者が推奨しているのが“パラレルキャリア”。
つまり、本業と並行して複数の経歴を同時進行で身につける働き方である。
本書では、定年後に長年の夢を実施した60代。大企業に勤めながらイメージコンサルタントとしてキャリアを積む50代男性、収納アドバイザーとして活躍する40代男性などの事例が挙げられている。

「定年3年前だから資格をとる」という発想ではなく「定年後に〇〇として生きるため、本業の合間にできることを今から始めて実績を積むことが大切」と説いている。

人生100年時代。会社が面倒を見てくれるのは定年まで、その後の人生を明るく過ごすには、現役時代から独立に必要なスキルを高めながら進化する社会に対応できる自分磨きをしておくことが大切である。

『おじさんの定年前の準備、定年後のスタート ~今こそプロティアン・ライフキャリア実践! ~』
作  者:金澤美冬
発売日:2021年9月22日
メディア:総合法令出版

 

 

【書評】俺は誇りもなく、かわりに絶望もないこの稼業を今後も続けるつもりである。転職は思いつかない。『ハード&ルーズ』

 

狩撫麻礼の追悼本『漫画原作者狩撫麻礼 1979-2018 《そうだ、起ち上がれ!! GET UP . STAND UP!!》 』を読んで、まんまと沼に入り込んでしまった私。何十年振りかに狩撫麻礼原作の漫画を、まあまあ大体昔読んだ順に読み出した。
まず、『青の戦士』だが、これは大分前に書評を書き上げ済みだ。
続くが本書。画はかわぐちかいじだ。
劇画で私立探偵の話と言えば、拳銃バンバンのバイオレンス物が想起されるが、本作は趣きがかなり異なる。

主人公は一匹狼の私立探偵、土岐正造。かつてはボクサー志望であり、それ故に昨今の根性無しのボクサーに悪態をつきながらも、ボクシングへの愛を捨て切れない男である。
「リングの他に行き場所がなかった者にしか、断じてボクサーになる資格はねえんだ!!」

そんな探偵への依頼事の数々は、毎回なかなかにユニークだ。
ある男と友達になって、頃合いを見計らって依頼人の指定した場所で偶然の様にある女と出会わせて欲しい。
通勤電車で毎朝見かける男との愛のキューピット役を頼んできたハイミス。
旅回りの熟年ストリッパーへ、赤いラメのハイヒールを渡しに行く役回り。
かつて土岐も憧れていたボクサーの、落ちぶれと妄想と暴挙との格闘。
グレてしまった娘が、心底カスなのか、それともいくらか救いのあるただの反抗期の娘っ子なのかを見極めて欲しい、という極道者。
依頼者、若しくは調査対象、その他諸々が各々に抱えるモチーフとの一時の遣り取りの中から浮き出てくる人間の心理。それは愚かさや誠実さ、清々しさだったり様々である。
そしてそれらに感動する土岐のキャラクターが、結局は読者の心も揺さぶるのだが、そこには狩撫麻礼自身の姿が投影されている様にも思える。
ハード&(で)ルーズな一人の探偵の日常を綴る物語。
1983年に始まった雑誌連載は1987年まで続き、単行本は全七巻と、狩撫麻礼にして最初の長期連載となった。

ハード&ルーズ
作者: 狩撫麻礼かわぐちかいじ
発売日:1984年5月19日
メディア:単行本

 

 

【書評】平成と令和で大きく変わったお金のルール『見るだけでお金が貯まる賢者のノート』

 

大学を卒業後、サラリーマンとして定年まで仕事を全うした著者が築いた金融資産は1億円。試行錯誤して体得した賢いお金の残し方が学べる一冊。

1989年に初めて導入されたときの消費税率3%、現在は10%。
30年前の会社員の平均所得425万円、現在433万円。
8万円額面が増えたように見えるが天引きされる国民健康保険1.98倍、厚生年金1.28倍、健康保険料1.19倍。負担が増えた分、手取りは減少した。
大学の授業料1.6倍、全体的な物価上昇率1.1倍。それに対して、受け取る退職金は平均600万円減額。
生活を切りつめて貯蓄に励んでも平成2年、6.08%あった定期預金金利は現在0.002%。
銀行に支払う各種手数料が新設されたことを考えると銀行にお金を置いておけば増えた時代は完全に終わった。
つまり、平成のはじめと、令和のはじめでは、お金に関する常識が大きく変わったことになる。

人生に存在する「4度の貯金の貯め時」
貯金が貯められる期間は「独身時代」「結婚して子供が生まれるまで」「子供が小学校の期間」「子供が社会人となったあと自分が定年するまで」。
逆に「役職定年」「配偶者死別」など、収入がダウンする時期も4つあり、これを「収入ダウンの4つの崖」と呼ぶ。
平成のはじめと比べると日本人の平均寿命は男女共に約6歳伸びている。
お金に振り回されない人生を送るためには、家族のライフイベントを見越した早めの準備に取り組むことが大切である。

この書籍は、クレジットカードのリボ払いを避ける、過剰に保険に入らない、車を所有するコストを知るなど、よくいわれている生活コストの見直しについてはもちろん。貯金、投資、正しい借金の仕方、相続にいたるまで人生に必要となるお金に関することが大局的にまとめられている。
また、ファイナンシャルプランナー1級資格を持つ著者からみた「老後2000万円本当に不足するのか?」「産休育休をとると損なのか?」「持ち家と賃貸どっちが得?」。
判断するのが難しい事柄が図解で比較されている。

読者の使い方によっては、タイトルに示されている通り「賢者のノート」になりえる書籍といえる。いや、是非、繰り返し読むことで「賢者のノート」にしてほしい。

『見るだけでお金が貯まる賢者のノート』
作  者:水上克朗
発売日:2022年7月28日
メディア:自由国民社

 

 

【書評】感動してしまったら人は容易に道を踏み外す。『漫画原作者・狩撫麻礼 1979-2018 《そうだ、起ち上がれ!! GET UP . STAND UP!!》 』

私にとって、彼の作品との出会いは衝撃を通り越して、って言うか、なんと言っていいか分からない位のものだった。
狩撫麻礼漫画原作者である。
この名前、”かりぶまれい”と読む。カリブ海とボブ・マーレイを合わせたペンネームだ。
初めて読んだのは、谷口ジローが作画を担当した『青の戦士』。どうやら狩撫麻礼初の本格連載作だったらしい。
そこに描かれていたのは、主人公のボクサーのストイックな姿などといった通り一遍のものではない。世間と折り合いを付ける気がさらさら無い男の物語の様に見えた。
それからは、『ルードボーイ』、『ハード&ルーズ』、『LIVE! オデッセイ』、『ナックル・ウォーズ』、『ライブマシーン』、『POWER FOOL』、『B』、『唇にブルース・ハープ』、『Days 時の満ちる』、『バトルキッズ』、『ア・ホーマンス』、『迷走王ボーダー』などなど、状況にスポイルされることを拒んで遁世し、なんらかの感動を以て契機とし、道を踏み外す人物たちの物語を片っ端から読んでいったのだ。
1990年頃からは、漫画自体にあまり食指が動かなくなり、実に散発的にしか読むことはなくなっていたが、反時代、反体制の作品スタイルは忘れられなかった。
その狩撫麻礼も、2018年1月7日、享年70歳で亡くなった。
本書は、漫画家・小説家・映画監督・編集者・読者たち60数名の狩撫麻礼からバトンを渡された人たちが、漫画・イラスト・文章・対談・インタビューなど、なんでもアリで故人を語る異例の追悼本だ。
皆さん、この難解な作家についてそれぞれが想うところを述懐している。なかなか膨大な資料ではある。

私は、これまで作品以外には彼の人物像など殆ど知ることがなかったのだが、実は私にとっては正直言ってそれはあまり重要ではない。作品に登場する主人公たちを見れば、それは或る程度想像がつくし、却って作品イメージを削がれることになっても困る。
映像化も何作かされているとはいえ、決してどメジャーとは言えない故に、狩撫麻礼作品自体がどう評価されているのかということを、ハッキリと目にする機会があまり無かったので、彼の作品に”出会ってしまった”人々が、何を感じ、どう受け止め、毒されてしまったのか。そこが知りたいポイントだ。

狩撫麻礼と交流が有った人は勿論だが、全く面識が無い人も多数本書には登場してくる。
それは多少の驚きを私にもたらすと共に、作品を通じて感じた、あの"黒さ"を彼らと未だに共有しているのだと思わされたのだった。
なんてこった。俺はまた毒されている・・・。
1990年代以降、遠ざかっていた狩撫麻礼作品。再びあの沼に入り込んでみようか。

 

《そうだ、起ち上がれ!! GET UP . STAND UP!!》 
作者: 狩撫麻礼を偲ぶ会
発売日:2019年7月24日
メディア:単行本

 

 

【書評】ストレングス・ファインダーのコード付き!『ザ・マネジャー 人の力を最大化する組織をつくる ボスからコーチへ』

 

これまでの従業員にひとにかく給料を払っておけばよかった。しかし、今人々の価値観は大きく変わってきた、給料だけでは従業員を雇い続けることができない時代が訪れている。

給料が高くて満足度が高い仕事は終わり現代は、目的、成長がもっとも従業員にとって大事な時代が訪れていると言う。給料が多少安くても自分にとって意味のある仕事につきたいし、自身の成長につながる仕事がしたい。これが現代の人類の価値観になってきている。

では、そんな新時代ではマネジャーはどのように振る舞う必要があるのか?。それはコーチになることである。部下の強みを知り、部下に強みが活かせる仕事を与えること、またどのようなキャリアを歩みたいかを理解し成長させること。そして、そのようなマネジャーが多い会社は最終的には業績も上がる。これが現代のスタンダードだ。

また、本書には強みを見つける手法で有名なストレングス・ファインダーのコードもついている。ストレングス・ファインダーでは34の強みを調べることができる。

本書は、マネジャー、リーダーだけでなくフォロワーにも是非読んでいただきたい。また、強みを知ることで、目的を持ちやすく、また成長に繋がるだろう。時代が変わると、人も変わり、組織も変わるんだなぁと感じだ1冊だ。

 

 

【書評】あえてクレームをつける?『レクサスオーナーに愛されるホテルで学んだ 究極のおもてなし』

著者の馬渕 博臣氏は「テラス蓼科リゾート&スパ」(通称:トヨタのホテル)の元支配人。本書の要は「顧客の立場に立つために自分で試す」ことである。登場するエピソードを読むと、「顧客(相手)の立場に立つ」ということに立体感をもつことができる。

「顧客の立場に立つために自分で試す」。その最たるものが「あえてクレームをつける」。どういうことか?先方の応対に注目して、クレーム処理の仕方を学ぶのである。本書には載っていない著者のエピソードを1つ紹介する。

長野県を中心に「そば処 小木曽製粉所」という蕎麦屋がある。工場の機械で製麺した蕎麦を店舗に届け、それを茹でて提供するスタイルで展開を続けている。評者も松本を訪れた際は駅前店に毎度立ち寄っている。

その駅前店には元々グループ企業が運営する別の蕎麦屋があったそうだ。そこにあまりよろしくない店長がいて、著者がクレームをつけたところ「人に頼らない蕎麦屋を作らねば」という発想から上記スタイルになったそうだ。

これは単なるクレーム処理に留まらない、かなり大胆な対応だ。しかし「顧客(相手)のことを考える」「究極のおもてなし」とはこうした対応を指すのかもしれない。

 

 

【書評】ガーシーはどうやって生まれたのか『死なばもろとも』

 

今話題のガーシー。本書はガーシーがどうやって生まれたのかが良くわかる本だ。ガーシーがギャンブル中毒だったなんて知らなかった。

さて、ガーシーについて、知らない人はいないと思うが簡単に説明しよう。ガーシーは元々芸能人相手に女の子をアテンドしていた人だ。しかし、ある事件をきっかけに海外に逃亡。そして、数十年の芸能人との関係から握っているネタを配信するYoutuberとなったそれがガーシーだ。最近では国会議員になった話でも話題だろう。

さて、そんな本書ではガーシーの大学時代や、車や時代、そしてどうやって芸能人との関係を作っていったかが書かれている。分厚く見えるが面白く一気に読めるだろう。

また、本書の特徴として全て関西弁で書かれていることがある。評者は関西人のためそこまで違和感はないが、少し読みにくいかもしれないない。
また、ガーシーのおすすめのキャバクラや風俗、飲食店の紹介もあるこれも要チェック!。

本書はガーシーに興味ある人が読むことになるとは思うが、人生、人付き合いについても考えさせられる。こんな状態のガーシーのことを島田紳助は「自分の周りには友達やでっていうで」と言える。ガーシーのやっていることがいいことかは置いておいて、こんな恩義のある人間になりたいと思った。

 

 

【書評】我流で撮影しても拡散しないという人へ。『ビジネスに役立つ 教養としての映像/動画』

 

動画活用は必須の時代。こういう本は読んでおいて損は無かろうと思い手にした。
本書では、映像、動画に関わる知識を身に付けることでビジネスに転用することも出来ると言っている。例えば、メッセージの込め方、オチのテクニック、話術の基本は緊張と弛緩であること。これらの手法を知り、身に付けることによってプレゼンテーション力を高める、と言った具合だ。

もっとも、本書の主題は映像や動画というものへの理解度を深めることだ。
様々な面から見た解説の数々は非常に細やかである。その為、本書は390頁にも及ぶのであるが、一つずつの節は割と端的に描かれており、案外読み易いし、分かり易くもある。
映像、動画から得られる、ビジネスにも使えるエッセンスの紹介から始まり、映像の歴史として割と古めの映画、映画監督が当時どの様な手法を使ってきたのかに発展する。
また、実際に動画を撮る際の技術や、機材の扱い方講座、動画編集に関わるアプリの選定なども詳述しているが、直接関わりが無いと思えば、ざっと読んでおけば良いかもしれない。必要になった時には、また本書を紐解けば良いのだ。

映像というものの歴史は深いが、その有り様は時代と共に変化してきている。
活用の場は、映画から始まり、テレビへと移行、そして今ではネット上が主流となっている。そのネットにしても様々なプラットフォームが次々に現れ、主役の座を奪い合ってきた。
そういった動画プラットフォーム別の、はたまたZoomなどのコミュニケーションツールの上手な使い方にまで言及している本書。なかなか幅の広い内容で、これ一冊でかなりの範囲の映像、動画の知識がざっくり得られるのは有難い。
著者は、「まずは良いものより体験である。経験と知識が増えれば増えるほど楽しくなるのが映像の世界だ」と言うのである。
やってみたいと思えば、とにかく映像制作をしてみるのが得策か。

ところで、貴方は「映像」と「動画」の違いが分かりますか? 

ビジネスに役立つ 教養としての映像/動画
作者: 木村博史
発売日:2022年7月4日
メディア:単行本 

 

 

【新着記事】全ては思い込みから始まる。『幸福論』

 この著書は言わずと知れたフランスの哲学者が紡いだ言葉たちである。ちょっとなんだかモヤモヤする夜には最高の一冊だ。

 アランは心理学者ではない。ただし心理学が哲学者を祖としていると捉えると、アランからのメッセージは私たちの心をくすぐってくるのは理解できよう。
  少し前に流行った個人心理学は、他者に習えと言われ続けアイデンティティを失った日本人に刺さった。他者を見ろ、他者より秀でるな、他者に迷惑をかけるな、と長年マインドコントロールされたのに、社会に出たら右や左を真似るなと言われるわけだ。どこに幸福を感じればいいのかわからない。これが現代人を苦しめるカラクリだ。
  幸福論は誰にでもある日常をそっと語りかける言葉で表現する。アランは当時毎日新聞に執筆していた。書き直す時間なんてなかったわけだ。それゆえ、美しく自然で優しく勢いのある言葉たちが羅列されている。まるでクラシックミュージックのように。
  「人間には自分自身以外の敵はほとんどいない」「幸福だから笑うのではない、笑うから幸福なのだ」「私たちの敵はつねに想像上のものである」。さっ、悩むのやめて寝よう。

 この著書は言わずと知れたフランスの哲学者が紡いだ言葉たちである。ちょっとなんだかモヤモヤする夜には最高の一冊だ。

 アランは心理学者ではない。ただし心理学が哲学者を祖としていると捉えると、アランからのメッセージは私たちの心をくすぐってくるのは理解できよう。
  少し前に流行った個人心理学は、他者に習えと言われ続けアイデンティティを失った日本人に刺さった。他者を見ろ、他者より秀でるな、他者に迷惑をかけるな、と長年マインドコントロールされたのに、社会に出たら右や左を真似るなと言われるわけだ。どこに幸福を感じればいいのかわからない。これが現代人を苦しめるカラクリだ。
  幸福論は誰にでもある日常をそっと語りかける言葉で表現する。アランは当時毎日新聞に執筆していた。書き直す時間なんてなかったわけだ。それゆえ、美しく自然で優しく勢いのある言葉たちが羅列されている。まるでクラシックミュージックのように。
  「人間には自分自身以外の敵はほとんどいない」「幸福だから笑うのではない、笑うから幸福なのだ」「私たちの敵はつねに想像上のものである」。さっ、悩むのやめて寝よう。