著者の馬渕 博臣氏は「テラス蓼科リゾート&スパ」(通称:トヨタのホテル)の元支配人。本書の要は「顧客の立場に立つために自分で試す」ことである。登場するエピソードを読むと、「顧客(相手)の立場に立つ」ということに立体感をもつことができる。
「顧客の立場に立つために自分で試す」。その最たるものが「あえてクレームをつける」。どういうことか?先方の応対に注目して、クレーム処理の仕方を学ぶのである。本書には載っていない著者のエピソードを1つ紹介する。
長野県を中心に「そば処 小木曽製粉所」という蕎麦屋がある。工場の機械で製麺した蕎麦を店舗に届け、それを茹でて提供するスタイルで展開を続けている。評者も松本を訪れた際は駅前店に毎度立ち寄っている。
その駅前店には元々グループ企業が運営する別の蕎麦屋があったそうだ。そこにあまりよろしくない店長がいて、著者がクレームをつけたところ「人に頼らない蕎麦屋を作らねば」という発想から上記スタイルになったそうだ。
これは単なるクレーム処理に留まらない、かなり大胆な対応だ。しかし「顧客(相手)のことを考える」「究極のおもてなし」とはこうした対応を指すのかもしれない。