HIU公式書評Blog

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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】過度な自由が、民主を侵している!『自由が民主を喰う』

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自由と、民主の定義を確認していく。自由とは、他人から束縛を受けず自分の思うままに振る舞えること。また、守るべき価値そのものである。民主とは、人民が主権をもち行使する政治こと。自由を守る手段である。グローバルな自由、ナショナルな民主。そのギャップによって世界は悩まされている。本来は、自由を守るべき方法として民主があるはずである。しかし、そのバランスが崩れており自由の暴走により、民主が侵されているのではないか。

著者が最も言いたかった事は、人間1人1人を中心とした自由と民主の価値を見失うことなく、両者の関係を見極めながらアクセルとブレーキを踏み分けていくこと。また、少しづつ仲間意識を広げていく努力を続けていくことで、自由で平等な世界を作っていけること。

中国は、リーマンショク・コロナ後の対応が迅速であり、自国への影響を最小限に抑えることに成功した。しかし、今後他の国々が中国のような政治を行うのは、望ましくない。私、自身も監視国家の元で生活していきたくはない。1人1人が幸せを守っていく為にも、自由・民主のあり方について改めて考えるべきだ。

 

 

【書評】人生は、面白味で満ち溢れている方がいい『将来の夢なんか、いま叶えろ。~堀江式・実践型教育革命~』

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本書では、日本の学校や教育、著者が立ち上げたゼロ高等学院について、また生徒自らが今、目指していること、ゼロ高を選んだ理由やその経緯について書かれている。

ゼロ高等学校「ゼロ高」とは、座学よりも行動を目的とし、通信制高校との提携により、高校卒業の資格も得られ、自分のやりたいことを実現するための近道になるところだ。

例えば、ゼロ高生は著者が主宰するオンラインサロン堀江貴文イノベーション大学校(HIU)にも参加できるため、定例イベント等で時々「ゼロ高生なんです」と話しかけてくれる人もいる。

その印象は、誰もが積極的に活動し、自分の夢に向かい人生を楽しんでいるように見える。そういう姿は、なんだか他人ながらも、嬉しく感じる。

評者もHIUに所属し3年になるが、どんどん楽しみが増している。もともと著者と各業界で活躍する人との対談に興味を持って入会したのだが、これがまた非常に面白い。

最近の定例イベントでは対談のみならず、体験型として、著者とメンバーが一緒にゲームの中の謎解きを行ったり、雀荘でマージャンをしたり、また、本の登場人物のセリフを考えたりと、より面白味が増した。

普段は仕事柄、自分が前に立ち、説明をすることが多いため、主宰者である著者自身が、メンバーにわかりやすいようにホワイトボードに書きながら、プロジェクトを進めていく姿は、なんだか非常に新鮮で楽しく、とても有意義な時間であった。

これらはすべて初めての体験ばかりで、今度はどんなことをするのかと、毎回参加するのがとても楽しみだ。

正直言って、都内で開催の場合は、仕事を早退してでも参加した方が自分の人生にとってもより意味があり、それは同時に会社にとっても利益があることだと考えている。それに気づいていない人がほとんどだと思うが。

そんな人生の楽しみであり、また同じ方向を向いている人が集まる場所が、HIUであり、ゼロ高なのだ。今自分の人生が面白みで満ち溢れていない人は、本書を読み、新しい一歩をすぐに踏み出した方がいいだろう。

ゼロ高等学院
https://zero-ko.com

 

 

 

【書評】「孤独のグルメ」しか知らないのは谷口ジローを何も知らないに等しい。『犬を飼う そして...猫を飼う』

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コルク代表、編集者の佐渡島庸平さんが、Youtubeで「必読漫画」として本書を紹介していた。著者のことをB級グルメ漫画「孤独のグルメ」を描いた人として知っている人は多いだろう。

しかし、「「孤独のグルメ」しか知らないというのは谷口ジローを何も知らないに等しい。すごく損をしている。」と佐渡島さんは言っていた。そこまで言うなら読んでやろうじゃないか。と思い本書を手に取った。

本書は、著者が実際に飼っていた「サスケ」という犬を看取った時のことをもとに描いた作品である。派手さは全くないが、描写が丁寧で、心に深く刺さるものがある。

愛犬とのふとした日常。例えば散歩中の様子が、作中ではこんな風に描かれている。

"私たちのまわりにはひとりの人も見えない。私たち以外誰もいない。なんだかこの世に私と妻、そしてサスケだけしかいないのではないかと錯覚するほどの静けさだ。ぽかぽかと陽だまりの中、草の上に寝そべる。空が高く、薄い雲がゆったりと流れていく。こんなたわいもないことに幸せを感じていた。仕事のことも忘れる。こうしていると、嘘のように時間の流れも感じられないほど穏やかな心持ちになれる。"

まるで小説のような美しい文章で、愛犬との幸せな日常が描かれる。

けれど、犬は人間よりはやく年老いてしまう。
年老いてだんだんと歩くことが困難になる。散歩が大好きな犬にとって、歩けなくなることはどれほどつらいのだろう。

”それでも犬は最後まで歩こうとする。横になって腹を見せたら負けなのだ。だから、立ち上がろうとする。とにかく歩こうとする。その熱意に少しでも力を貸してやるのが、私たちの責任なのだ。”

生きるということ、死ぬということ、人の死も犬の死も同じである。

評者の家でもインコを2匹飼っている。飼ってみて初めて、命を預かることの難しさを実感している。動物を飼うことは、様々な不便や面倒なことがある。一番難しいのはやはり、言葉が通じないということ。寒いとか、お腹痛いとか、言葉にして教えてくれたらどんなにいいだろうと、いつも思う。それでも、動物というのは多くの気づきと、なによりも癒しを与えてくれる。ただそこに彼らがいてくれるだけで、計り知れない励ましと、勇気をくれる。

じっくりと、時間をかけて楽しみたい作品である。犬や猫など、動物を飼ったことがある方なら、共感できるところが多くあるだろう。動物も人も、「死」と向き合うということは、とても時間のかかるものである。ひたすらに深く落ち込むということも必要なことかもしれない。本書のような作品は、辛い時の支えとなってくれるのではないだろうか。

評者は、本書を読んで初めて、谷口ジロー氏の本当の顔を見ることができたように感じる。
実は著者の作品はフランスやイタリアなど、ヨーロッパではとても高く評価されているらしい。それも「孤独のグルメ」の著者としてというよりも、本書のようなオシャレで繊細な、美しい作品の漫画家として。著者は主人公の静かな心の内をたんたんと描くことが得意な作家である。「「坊ちゃん」の時代」など他の作品も面白そうなので読んでみようと思う。

 

 

【書評】Farewell, My Lovely 『さらば愛しき女よ』

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本書は、レイモンド・チャンドラーの二作目の長編で、1940年の作品である。著者の二大傑作と言われているうちの一冊だ。
もう一冊は1953年の作品『長いお別れ』で、両作品共、最近になって村上春樹の新訳版が出版されたりもしている。
主人公は、言わずと知れたフィリップ・マーロウだ。著者の長編作では決まって彼が主人公である。タフで肝の据わった、口の減らない私立探偵だ。
本書では、二作目だけあってマーロウも若く、行動的で次々と事態が進展し続けるし、なかなかのモテっぷりも発揮している。
そして、よく殴られる。
この辺りの暴力性が、その後の犯罪小説では強調されることが多くなった。それらの多くは、ハードボイルド小説と言うよりも、暴力小説と読んだ方が相応しいと私は思う。

チャンドラーの作品数は決して多くはなく、長編は七作しかない。
幾つかの中編を組み合わせて、再構成させる手法が殆どである為に、話があちこちに飛んだりもするから、難解な印象を持つことが多い。
短編集を読んでみると、案外にシンプルで判り易いと思うかもしれない。
また、しばしば映画の脚本も書いており、アルフレッド・ヒッチコックの作品でも脚本に参加していたりするので、機会があれば観てみるのも楽しいかもしれない。

ハードボイルド小説は、アーネスト・ヘミングウェイを祖とし、ダシール・ハメットが探偵物でその作風を活かして大成させ、レイモンド・チャンドラーが完成させたと言われている。
ハメットが、元ピンカートン探偵社のエージェントだった経験を活かして作品を作り上げたのに対し、チャンドラーは大恐慌の影響で石油会社の重役の職を失い、生活の為に筆を執った。
チャンドラーの登場は、それまでゴミの様に扱われていたパルプ・マガジンのクライムストーリーを文学に押し上げた。その秘訣は流麗な文体にある。
アメリカのハードボイルド小説家の数は多い。名作家と呼ばれる何人もの人々の作品も読んだことはあるが、私にはチャンドラーほどには楽しめなかった。それは、恐らくチャンドラーが幼少期から23歳まで、イギリスを主として欧州で育ったことと関係があると思う。アメリカのとっちゃん坊やが書く文章とは、自ずと変わってくるのであろう。

今回、本書を何十年振りかに読んでみたのだが、出だし以外をすっかり忘れていて、やや驚いた。
だが、そのお陰で改めて新鮮に名作を愉しむことが出来た。
因みに、アニメ『コードギアス』での名セリフとされている、「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」は、マーロウがオリジナルなのである。

 

 

【書評】Amazon〜小売業界の和田アキ子〜『 amazon 世界最先端の戦略がわかる』  

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とにかくAmazonの凄さを語る作品です。皆がいつも使っているAmazonの最大の収益は小売ではありません。あなたは何屋さんなの?ってくらい手広い。小売業に関わらず、事業を拡大するための秘訣と現実が全て描かれています。

面白ポイント①
amazonの収益構造が面白い。amazonはただのECサービスでは無く、AWSというクラウドサービスが会社の最大の利益を作り出しています。それが世界中の多くの企業で現在利用されています。
マクドナルド、AirbnbNetflix、米中央情報局(CIA) …etc。
CIAって…。それ公表していいの?みたいな。
会社のサポート部門が業績を上げる事はあれど、本業をど返しするほど利益を生み出しているところが凄い。
経営者の柔軟な考え方、軽いフットワーク、行動力が豪快過ぎて面白い。

面白ポイント②
筆者である成毛眞さんの視点が面白い。
マイクロソフト社長の成毛さんだからこそ、怪物のように大きく秘密主義のamazonの得体の知れなさを的確に捉えて解説しています。
amazonを悪者扱いしたり、過大評価する文献もありますが、この書籍は至ってニュートラルに解説しているので感情的にならず分かり易い。IT業界のトップランナーとして走って来た知識を基にamazon×テクノロジーが革命を起こしている事を理論的に解説していて、分かり易いです。

自分で事業を行なっている人に特にお勧めの書籍になっています。
サラリーマンの方が読んでもとても楽しいのですが、事業で生まれた利益収益をどう次に生かすのか?
止まる事なく、前進し続けるメンタリティーや考え方は、まさに事業主の方にお勧めです。
現代の本としては少し厚みがあり、大きいのですが、読んでみるとサクサク読めて意外と読みやすいです。持って歩くのには、かさばるのでKindleの方がオススメかも。
自分は本で読みましたけれども…。

なんで和田アキ子
ここまで触れずに進んできてしまいましたが…。
このタイトルをつけた理由としては素直に、アマゾンと言う会社自体の得体の知れなさと、パワフルさ、周りに影響を与える力強さ、業界内での厄介具合など、総合的なイメージが和田アキ子さんとリンクした事と、キャッチー&インパクトの意味でタイトル化せて頂きました。

たった30年で世界の頂点に上り詰めた。
この現実は、日本の全ての企業、日本の全てのビジネスマンが真摯に受け止めるべきだし、自分達の考え方やメンタリティーを変えなければいけない。そう痛感する書籍になっています。

失われた平成の30年間に、世界はこんなにも変化していた。

Amazonが作り出すサービスだけでなく、働き方やメンタリティーなど、とても勉強になります。

そこまでやらなくてもいいでしょう。

そんな事を本当にやってしまう。

それがトップを走り続ける秘訣だと感じました。

 

 

amazon 世界最先端の戦略がわかる

amazon 世界最先端の戦略がわかる

  • 作者:成毛 眞
  • 発売日: 2018/08/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

【書評】新しいことに挑戦できる、魅力的な人はごく僅か『空調服を生み出した市ヶ谷弘司の思考実験』

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地球温暖化を解決するために構想し、導き出された「空調服」本書では、それを発明するに至った著者の思考の世界や、その実験について書かれている。

空調服の始まりは、地球温暖化防止を目的とし「エネルギーをあまり使わないクーラー」という著者の思いつきをもとに、漠然とした思考実験から始まったそうだ。

しかし、全く新しいものを生み出すため、当然参考になる教科書はない。そのため、思いついた考えを繰り返し、徹底的に思考実験することを習慣にしてきたと言う。

製品は、100円ショップで購入したものを組み合わせて作っていったそうだが、そのような努力もなかなか人々からは理解されず、受け入れてもらうには時間がかかったそうだ。

例えば、「暑ければ服を脱げばいい」という一般的な考え方を覆すことは、なかなか難しい。多くの人は、誰しも固定観念に縛られ、またそれを疑おうとしない。

そのような中、どんな分野であっても、固定観念を覆し、新たなものを考え、作り出し、様々な逆境にも負けず、挑戦し続けることができる人はなかなかいない。僅かだからこそ、人として魅力的な存在になる。

人々から中傷されようが、自分が正しいと思うことを貫き通し、実現させていくことにより、新しい世界を切り開いていくことができるのだ。 

 

空調服を生み出した 市ヶ谷弘司の思考実験

空調服を生み出した 市ヶ谷弘司の思考実験

  • 作者:市ヶ谷 弘司
  • 発売日: 2020/08/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

【書評】舞台のド真ん中でハッタリをかまそう。『ハッタリの流儀』

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この本が、私が初めてマトモに読んだ著者の本です、多分。
それまで、著者に対しては報道で知る以上の知識が無かったのでしたが、どれか読んでみよっかな〜と思った時に、ちょうど発刊したタイミングだったのが、この本を手にした理由。
そう、たまたまではあったのですが、それ以降何十冊も読んだ中でも、私的には一番しっくりきた本かなと思っています。

いきなり「労働はオワコン」で始まり、え?そうなん?と、のけぞる。

その後も、
「損得を考えないぼけが応援される」
「ほっとけない孫になれ」
と続き、「プライドを捨てろ」で、とどめを刺され、ちょっと考えを改めさせられました。
それまで、私は決して甘え上手ではなかったし、どちらかといえば人に頼み事をするのが苦手な方であったのですが、人の目を気にしていても無駄かも?と思い始めました。
黙っていたら何も伝わらないのだから、取り敢えず発しちゃってみて、怒られたら、まぁそん時だよね、ってな風に切り替えをする様になりました。

「人生の中の足し算と掛け算」というくだりには、ちょっとばかり意外さを覚え、著者を誤解してたみたいという気づきもあったりしました。

あとは、共感の連続。
「親の考えを捨てろ」
そうそう、一念発起した一丁前の男が、親と仲良しでいられるかってんだ。

「やりながら学べ」
「ノリで動け」
まずは走り出して、違うと感じたら修正すれば良い。最悪なのは頭でっかち状態で、何も行動を起こせないことだ。

「大人になんてならなくていい」
いい歳かっくらっていても、いつまでも常にチャレンジしなきゃいけないぜ。

「まずは自分にハッタリをかませ」
自分のケツを叩き、そんな己れのことを、自分自身くらいは信じてやらなくっちゃね。

 

 

【書評】時間とはすなわち生活であり、人間の生きる生活は、その人の心の中にある。『モモ』

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「時間」とは、いったい何だろう?
機械的にはかることのできる時間が問題ではない。そうではなくて、人間の心のうちの時間、人間が人間らしく生きることを可能にする時間、そういう時間が私たちからだんだんと失われてきた。このとらえどころのない、謎のような「時間」というものが、この不思議なモモの物語の中心テーマである。

物語の舞台は、どこかの国の大都会。ニューヨークにも思えるし、パリにも見える、あるいは東京かもしれない。本作は1973年に出版されたものだけれど、今の私たちを写しているように見える。つまりこの町はまぎれもなく、典型的な現代の大都会である。そして街の住人とは私たちのことである。

そんな町に現れたのが、年齢も素性もわからない浮浪児のモモ。管理された文明社会の枠の中にまだ組み込まれていない人間、現代人が失ってしまったものをまだ豊かに持っている自然のままの人間の、いわばシンボルのような存在。人間に生きることのほんとうの意味を再び悟らせるために、この世に送られてきたのかもしれない。

ところがこのモモをとりまく世界は、「灰色の男たち」という奇妙な病菌に侵されはじめている。人々は「よい暮らし」のためと信じて必死で時間を倹約し、追い立てられるようにせかせかと生きている。子どもたちまで遊びをうばわれ、「将来のためになる」勉強を強制させられる。

こうして人々は時間を奪われることによって、本当の意味での「生きること」を奪われ、心の中はまずしくなり、荒廃してゆく。それとともに、見せかけの能率のよさと繁栄とはうらはらに、都会の光景は砂漠と化してゆく。

そのようにして計画的に生きることは現在という時間の質を問うことを禁止する。だからこそ時間を貯蓄するといった発想が成り立つ。ここでは人々は現在という時間を犠牲にして将来のために貯めておく。

現在を生きることを哲学者のエーリヒ・フロムは「集中」という言葉で語っている。
「集中するとは、いまここで、全身で現在を生きることである。いま何かやっているあいだは、次にやることは考えない。」そしてフロムはこの集中の例として、「相手の話を聞く」ということを挙げている。

物語の主人公、小さなモモにできたこと、それはほかでもない。相手の話を聞くことであった。なあんだ、そんなこと、誰にだってできるじゃないか。そう思ってしまうかもしれない。

だけどほんとうに聞くことのできる人は、めったにいない。相手の話を聞くとは、相手に関心をよせることである。そこからしか、愛は生まれない。

モモは、相手の話をじっと聞くことによって、その人に自分自身を取り戻させることができるという不思議な能力を持っていた。そんなモモが、時間泥棒に奪われてしまった人々の時間を取り戻すべく、「灰色の男たち」に立ち向かう。

「いまを生きる」ということの意味を改めて問う、ミヒャエル・エンデの名作である。「時間」とは、すなわち「生きる」とは何なのか。「時間」を切り売りして、「お金」に変えてきた社会へ、エンデは警笛を鳴らしていたのかもしれない。児童文学ではあるが、忙しい大人にこそ読んでほしい作品である。

最後に、本書の中で、評者の心に残った文を引用したい。

”時計というのはね、人間ひとりひとりの胸の中にあるものを、きわめて不完全ながらも真似て象ったものなのだ。光を見るためには目があり、音を聞くためには耳があるのと同じだ。人間には時間を感じるために心というものがある。そして、もしその心が時間を感じ取らないようなときには、その時間はないも同じだ。”

 

モモ (岩波少年文庫)

モモ (岩波少年文庫)

 

 

【書評】丸と線だけで、人に響くプレゼンが出来る 『なんでも図解――絵心ゼロでもできる! 爆速アウトプット術』

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会議,プレゼン等の場で伝えたい内容が相手に伝わらず、ダメ出しをされてしまった経験はありませんか?
本書では、誰にでも描ける図と文章を組み合わせることで、伝えたい内容を格段に分かりやすくする方法が紹介されている。

評者は絵が下手である。
しかし、紹介されている方法で使う図は四角,丸,矢印など簡単なものばかり。
本書に記載された参考図はどれも分かりやすく、これなら自分でも出来ると思えた。

実際にニュースの内容を用いて、図に起こすトレーニングをしてみた。
より伝えやすくするにはもう少し時間がかかりそうだが、原因,過程,結果が視覚的に理解できる部分だけを見ても効果が実感できた。
気が散る音がある状況で素早く図にするトレーニングをするとより効果があるそうなので、徐々に音楽等、別の音がある状況でもやってみるつもりだ。

また、この方法は分かりにくい内容を自分の中に落とし込む時にも使えると感じた。
ノートをとる時に使うとより分かりやすくなるはずなので、学生にも本書はおすすめできる。

本書は架空の生徒、講師による一週間分の講義で構成されている。
対話形式なので理解しやすく、また読み進めやすかった。

本書を参考に伝える力を磨いてみませんか?
仕事や学業だけではなく、様々な場面で役立つはずです。

 

 

【書評】暴走した「自由」は毒となる。過度な「民主」は枷となる。『「自由」が「民主」を喰う-迷走するグローバリゼーションの深層』

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近年、英国のEU離脱や米国のTPP離脱に代表されるように、国際的な枠組み,取り決めから一部離れ、グローバルな自由を国家の民主によりコントロールしようという動きが見られるようになった。
本書では、様々な事例と共に、その守られるべき「自由」とそこに秩序をもたらす「民主」とのバランスについて、筆者の見解がまとめられている。

グローバル化された経済活動は国家ごとの制度の違いにより、資本が多い企業,特にGAFAのようなIT分野の企業に集中した利益をもたらす。
課税の観点からみると、物理的な拠点をより低い法人税率を導入している国におく事が挙げられる。
これは拠点を任意に定められるIT分野の企業により有利に働
いている。

これを是正しようと国家単位でデジタル課税や制裁金・追徴金の名目で企業に納付を求めている。
しかし、国際的な取り決めはないため限定的な措置にとどまっている。

グローバルな自由化により、価値観の画一化が進行することも問題だ。
風土や文化に裏付けされた国家ごとに異なる価値観がグローバルな価値観に呑まれかけている。
こうしたグローバルな価値観を後ろ盾にした民族,国家の価値観と、受け入れる側の価値観との衝突が欧州における難民排斥運動等につながっている。

他にもコロナウイルスの世界的な広がり,国家間の格差等、様々な問題に触れながら本書は展開していく。
「自由」にどの程度まで秩序を与えるのが妥当か、考えさせられる一冊だった。

最後に個人的な意見ではあるが、グローバル化に対する国際的な取り決めが進まない要因の一つに、現在においても尚、国家間の理解が進んでいない事があると感じた。
ここでいう理解は、異なる価値観を受け入れ、歩み寄るべきだという意味ではない。
国家ごとに異なる価値観,主張の根底を知る事である。
相容れない部分は必ずあり、またそれで良いと思う。
まず重要なのは知る事だと評者は考える。