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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】「孤独のグルメ」しか知らないのは谷口ジローを何も知らないに等しい。『犬を飼う そして...猫を飼う』

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コルク代表、編集者の佐渡島庸平さんが、Youtubeで「必読漫画」として本書を紹介していた。著者のことをB級グルメ漫画「孤独のグルメ」を描いた人として知っている人は多いだろう。

しかし、「「孤独のグルメ」しか知らないというのは谷口ジローを何も知らないに等しい。すごく損をしている。」と佐渡島さんは言っていた。そこまで言うなら読んでやろうじゃないか。と思い本書を手に取った。

本書は、著者が実際に飼っていた「サスケ」という犬を看取った時のことをもとに描いた作品である。派手さは全くないが、描写が丁寧で、心に深く刺さるものがある。

愛犬とのふとした日常。例えば散歩中の様子が、作中ではこんな風に描かれている。

"私たちのまわりにはひとりの人も見えない。私たち以外誰もいない。なんだかこの世に私と妻、そしてサスケだけしかいないのではないかと錯覚するほどの静けさだ。ぽかぽかと陽だまりの中、草の上に寝そべる。空が高く、薄い雲がゆったりと流れていく。こんなたわいもないことに幸せを感じていた。仕事のことも忘れる。こうしていると、嘘のように時間の流れも感じられないほど穏やかな心持ちになれる。"

まるで小説のような美しい文章で、愛犬との幸せな日常が描かれる。

けれど、犬は人間よりはやく年老いてしまう。
年老いてだんだんと歩くことが困難になる。散歩が大好きな犬にとって、歩けなくなることはどれほどつらいのだろう。

”それでも犬は最後まで歩こうとする。横になって腹を見せたら負けなのだ。だから、立ち上がろうとする。とにかく歩こうとする。その熱意に少しでも力を貸してやるのが、私たちの責任なのだ。”

生きるということ、死ぬということ、人の死も犬の死も同じである。

評者の家でもインコを2匹飼っている。飼ってみて初めて、命を預かることの難しさを実感している。動物を飼うことは、様々な不便や面倒なことがある。一番難しいのはやはり、言葉が通じないということ。寒いとか、お腹痛いとか、言葉にして教えてくれたらどんなにいいだろうと、いつも思う。それでも、動物というのは多くの気づきと、なによりも癒しを与えてくれる。ただそこに彼らがいてくれるだけで、計り知れない励ましと、勇気をくれる。

じっくりと、時間をかけて楽しみたい作品である。犬や猫など、動物を飼ったことがある方なら、共感できるところが多くあるだろう。動物も人も、「死」と向き合うということは、とても時間のかかるものである。ひたすらに深く落ち込むということも必要なことかもしれない。本書のような作品は、辛い時の支えとなってくれるのではないだろうか。

評者は、本書を読んで初めて、谷口ジロー氏の本当の顔を見ることができたように感じる。
実は著者の作品はフランスやイタリアなど、ヨーロッパではとても高く評価されているらしい。それも「孤独のグルメ」の著者としてというよりも、本書のようなオシャレで繊細な、美しい作品の漫画家として。著者は主人公の静かな心の内をたんたんと描くことが得意な作家である。「「坊ちゃん」の時代」など他の作品も面白そうなので読んでみようと思う。