近年、英国のEU離脱や米国のTPP離脱に代表されるように、国際的な枠組み,取り決めから一部離れ、グローバルな自由を国家の民主によりコントロールしようという動きが見られるようになった。
本書では、様々な事例と共に、その守られるべき「自由」とそこに秩序をもたらす「民主」とのバランスについて、筆者の見解がまとめられている。
グローバル化された経済活動は国家ごとの制度の違いにより、資本が多い企業,特にGAFAのようなIT分野の企業に集中した利益をもたらす。
課税の観点からみると、物理的な拠点をより低い法人税率を導入している国におく事が挙げられる。
これは拠点を任意に定められるIT分野の企業により有利に働
いている。
これを是正しようと国家単位でデジタル課税や制裁金・追徴金の名目で企業に納付を求めている。
しかし、国際的な取り決めはないため限定的な措置にとどまっている。
グローバルな自由化により、価値観の画一化が進行することも問題だ。
風土や文化に裏付けされた国家ごとに異なる価値観がグローバルな価値観に呑まれかけている。
こうしたグローバルな価値観を後ろ盾にした民族,国家の価値観と、受け入れる側の価値観との衝突が欧州における難民排斥運動等につながっている。
他にもコロナウイルスの世界的な広がり,国家間の格差等、様々な問題に触れながら本書は展開していく。
「自由」にどの程度まで秩序を与えるのが妥当か、考えさせられる一冊だった。
最後に個人的な意見ではあるが、グローバル化に対する国際的な取り決めが進まない要因の一つに、現在においても尚、国家間の理解が進んでいない事があると感じた。
ここでいう理解は、異なる価値観を受け入れ、歩み寄るべきだという意味ではない。
国家ごとに異なる価値観,主張の根底を知る事である。
相容れない部分は必ずあり、またそれで良いと思う。
まず重要なのは知る事だと評者は考える。