主人公の雄町哲郎(マチ先生)は、
妹の死をきっかけに、大学病院の医局を辞め、 京都の町医者として働くことを決める。妹の最愛の息子である、中学生の龍之助の世話をするためだ。
大学とは違い、最先端の医療器材による治療はできないが、患者1人1人とより強く向き合うことになる。
医療に正解はない。
振り返った時に、これで良かったのだろうかと思うことばかりだ。
『医療の力なんて、本当にわずかなものだと思っている。人間はどうしようもなく儚い生き物で、世界はどこまでも無慈悲で冷酷だ。そのことを、私は妹を看取ったときにいやというほど思い知らされた。だからといって、無力感にとらわれてもいけない。それを教えてくれたのも妹だ。世界にはどうにもならないことが山のようにあふれているけれど、 それでもできることはあるんだってね。医療がどれほど進歩しても、人間が強くなるわけじゃない。私たちにできることは、もっと別のことなんだ。うまくは言えないけれど、きっとそれは・・・・・・。暗闇で凍える隣人に、外套をかけてあげることなんだよ』
全ての事象は、原因と結果の連鎖によって必然的に生じるという決定論を問いた17世紀の哲学者のスピノザ。
すべてが決まりきっているのなら、
努力なんて意味がないはずなのに、
『だからこそ努力が必要だ』とスピノザは述べる。
医療×哲学をテーマに構成される本小説。登場人物1人1人が魅力的で面白かった。おすすめの1冊です。
スピノザの診察室
作者:夏川草介
2023年10月25日初刷発行