さて、天才と言われれば、皆さんは誰を想像するだろうか?あるいは、どのような人を想像するだろうか?ちょっと考えていただきたい。恐らく、皆さんが想像するのは、小さいころから才能に恵まれ、一つのことを極め抜き、トップに登り詰めた人ではないだろうか?大体エジソンも似たような名言を残しているではないか。「天才とは1%のひらめきと99%の努力」という言葉は、世界中に浸透している。実は、この本には、如何に皆さんが「間違った木」を見ているかがよくわかる。つまり、この名言は、サンプル数が1で、エジソン自身の主観で作られた名言なのだ。エジソンファンには、ここでお詫び申し上げる。ちなみに、エジソンを馬鹿にしているわけではない。それだけはことわっておこう。しかし、僕が本当に言いたいのは、それなりの成果を上げたいなら、何も一万時間も練習しなくていい、ということだ。言い換えると、むしろ、一つのことを1万時間も同じ練習をしたら、リスクのほうが大きいということがこの本には書かれている。僕は、この本から、かなり役立つ勉強法や、考え方を学んだ。今回はそれを紹介しよう。僕の周りの人は、「知識の幅が広い」「本の名前が瞬時に出てくるのはすごい」と言ってくれる。その種明かしも少ししよう。
まず、専門家は応用が利かなくなるのだという。これは、変化の激しい現代ではかなり致命的になる。何故なら、本書によると、「専門家は、何か変化が起きると、自分が得意な領域でしか考えなくなるため、視野が必然的に狭くなる」のだという。確かに、一理ある。この本の具体例では、フェデラーとタイガーウッズが紹介されている。タイガーウッズは、幼少期からゴルフに触れている。しかし、対するフェデラーはスポーツは何でもやってきたという。テニスに絞ったのは高校生ぐらいの頃で、そこから、テニスの王者にも君臨するほどの強さになった。フェデラーは、インタビューで「子供の頃に触れた多くのスポーツが今の自分に役立っている」と語る。なぜかというと、多くのスポーツをやったことで、対応力や柔軟性が身についたからだ。これは頷けるAという領域だけの人と、A、B、C、という領域の人を比べた場合、後者の人のほうが柔軟性は高くなる。次々と新しく変化していく現代では、柔軟性が大切だろう。そこで、僕はマインドマップを使って読書や勉強をしている。一つの概念から色々枝を広げていくことで、立体的に知識を理解しよう、という作戦である。これにより、理解度が大幅に上がっただけでなく、関連知識も出てくるようになった。これが、「知識の幅が広い」と言われる所以の一つだ。
そして、最も役立った個所がある。「ゆっくり学ぶ」という章だ。これはどういうことだろうか?これは言い換えると「勉強は、効率を求めなくていい」ということなのだ。「ゆっくり考え方を身につけて、長期的に結果をだそう」と言いたいのだ。本書は、アメリカのある学校の数学の授業を取り上げている。著者は、「アメリカの学力が相対的に低いのは、教え方に問題があるからだ」という主張をしている。しかも、論文を使って。何が問題かというと、多くの場合、日本も含まれると思うが、「授業で、関連付けの質問がなされていない」ということらしい。確かに、学校や塾では、生徒を正解させることを塾の多くの先生は念頭に置いている。つまり、生徒を導いてしまっているのだ。これがよくないのだという。正解していると気分がよくなる。が、彼の紹介しているデータだと、、「授業の評価が低い先生のクラスほど、生徒の一年後の成績は伸びている」という。何て皮肉な話だ。では、教師は何をしていたのだろう。彼らは、授業中、学生の頭を文字通り悩ませていた。つまり、自分で考えさせたのだ。当然、知識がない学生は、一時的に成績が伸び悩む。すると、アンケートで酷評する。つまり、目の前の成績で親も成績も判断してしまう、という性質を表している。これでは、長期的には学生の役には立たないだろう。なので、授業では、僕も考えさせることを重点に置いている。そうすることで、理解度が深まるからだ。
かなり長くなってしまった。それだけ、今回の書評では伝えたいことが多かったのだ。本書は、時代の変化が激しい現代では、バイブルともいえるだろう。僕も、かなり役立てている部分がある。柔軟性が広ければ、思い込みに支配されることもない。関連書籍としては、マシュー・サイド氏の『多様性の科学』が挙げられる。併せて読むと、より、理解が深まるだろう。
最後に、知識は幅だ。問題が解決できないのは、大体の場合、知識の幅が狭いからである。そのことを教えてくれる本だ。ぜひとも、ご一読してはいかがだろう?
参考文献
デイビット・エプスタイン(2020~2021)『RANGE〈レンジ〉 知識の「幅」が最強の武器になる』東方雅美(訳) 日経BP