皆さんは、「時間」という概念をどのようにとらえているだろうか?そもそも、何故僕たちは「時間」を感じるのだろうか?書店に行くと、数々の時間術の本が並んでいる。メンタリストDaiGo氏の本や鈴木祐氏の著書にも、時間術の本がある。その中で、今回紹介する本は、何とイタリアの物理学者が書いた、時間に関する本である。専門書の類に近いが、そこまで専門知識がなくても読める本なので安心してほしい。ビジネスマンが書いた時間術の本より、こちらのほうが、僕としては興味深かった。なぜかというと、この本では僕らが「普遍である」と考える「時間」について、根本敵に考えを変える本だからである。今回の書評では、具体的にどの箇所が面白く、考えがひっくり返るのかを述べていく。
まず第一に、第一部で著者が「時間は普遍なものではなく、ところ変われば時間も変わる」というのを、物理の知識で述べている点が非常に興味深い。僕が特に魅かれたことは、僕たちの言う現在とは、「今いる自分の身の回りで起きていること」であり、遠くの世界の現在は分からない、という点である。分かりやすく言うと、遠くの人と電話している際、「今何してる?」と聞いてから、返事が返ってくるまで、若干のラグがある。僕らからすると、非常に短い時間であるが、僕らが電話で聞いている声というのは、数ミリ秒前の声であり、「現在」ではないのである。これが宇宙規模だったらどうだろう。「光年」という単位がある通り、光の速さで何年かかるか、である。太陽と地球は、光の速さで約8分。つまり、僕らが見ている太陽の光は、8分前の太陽の光、である。なので、現在ではないのである。このような記述を見た僕は、脳天を貫かれたような驚きを感じた。確かにその通りである。このような視点から時間について述べているのは、あまりないだろう。また、アインシュタインの相対性理論を分かりやすく説明している部分も、かなり面白い。
そして、最も面白いのが「僕ら人間は、どのように未来と過去を区別しているのか」という箇所だ。ここは、僕も考えもしなかったところだ。この書評をお読みの皆さんにも一度考えてほしい。どのように、僕ら人間は過去と未来を区別しているのだろう?実は、僕ら人間は、出来事に対して「ぼやかす」ことによって過去と未来を区別しているのだ。つまり、「ここから先は過去で、ここから先は未来だ」という、実にあいまいな線引きによて、区別しているのである。皆さんにも心当たりはないだろうか?どのような基準で過去と未来を区別してるのか?聞かれると、僕は答えられない。また、これに加え、出来事に関するもう一つの事実を、著者は提示している。「過去」には変数がほとんどなく、「未来」は変数が非常に多くかなり乱雑となっている、という事実だ。言われてみれば、僕らが「過去」を考えるとき、時系列立てて振り返る。つまり、一定の規則性があるのだ。一方、僕らが「未来」に関して考えるときはどうだろう?よく、「何が起こるかわからない」という言葉を聞かないだろうか?つまり、「未来には規則性がなく、特殊な配置、規則性というものがまるでない」のだ。言い換えれば、僕らは、「どのくらい規則性があるか」で、過去と未来を区別しているのだ。そして、この規則性の見つけ方は、人それぞれ、十人十色である。だから、遅刻する人も多くいる、という考察を導き出すこともできるのだ。
著者は、イタリアの理論物理学者であるカルロ・ロヴェッリである。現在は、フランスにある大学で研究チームを率いている。理論物理学者としては異例のベストセラー作家であり、著書に『世界は関係でできている』『すごい物理学講義』などがある。専門は「ループ量子重力理論」である。
この本は、物理学者が書いただけあって、「難しい」と毛嫌いする人もいるかもしれない。しかし、食わず嫌いせずに、ご一読いただきたい。難しいなら、じっくりゆっくり読むのも、読書の楽しみだ。そのくらい、この本は、好奇心が収まらない本である。事実、僕もこの本を読んでから、数学の問題をもっと解いて、物理に進もう、なんて思ったくらいである。ちなみに、一個だけ数式が出てくるが、その時筆者は「この本に数式を持ち込んだことをお許しいただきたい」と書いている。
参考文献
カルロ・ロヴェッリ(2019~2021)『時間は存在しない』冨永星(訳) NHK出版