南極にある昭和基地は文明社会の縮図のようなもの。日本では当たり前のことが決して当たり前ではない。そんな南極生活に、自分にできることはなんなのかを必死に模索しながら、平凡な主婦が挑戦する。
著者が南極へ行きたいと思ったきっかけは、子育て中に朝刊で見た1枚の写真。朝鮮やかな防寒着を着た女性が、真っ白い大地にすっと立っているだけの写真。その時、著者の心の中に一滴、しずくが落ちたような気がしたそうだ。それからその時みつけた種が芽を出すのはさらに数年後に映画『南極料理人』を見た時なのだが、行くと決めてからは行動あるのみ。情報をかき集め、はじめたばかりのfacebookで南極隊員にメッセージを送る。普通なら尻込みしてしまうが、やってしまえば意外と皆んな優しく対応してくれるらしい。そして年に一度の試験に3度目で合格し、晴れて南極隊員になる。何を始めるにしてもやらない理由を探すのではなく、とにかく行動あるのみ。そうすれば自分の熱意に反応して、誰かしら応援してくれる人は現れ、何かしらの道は見つかるということだ。
南極での生活は思いやりが大切だそうだ。30人いれば、気の合う人、そうでない人がいて当然。年齢も立場も違う、そんな人間たちが寝食を共にして仕事をする現場なんて日本にはない。既にその分野で経験を積み、責任を背負っている人たちの価値観が一致するわけもなく、共有している思いがあるとすれば、それは「南極観測を遂行し、無事に家族のもとに帰ること」。著者は男性だらけの中でただ一人の女性として、気を使ったり使われたりしたそうだ。大切なのは問題が起こった時にその都度みんなで解決策をみつける努力をすること。これはもちろんどこの組織でもいえることだ。
憧れはあるけれど、それは自分とは別の世界のはなし。そんな風に心に蓋をして本当にやりたいことをやらずに生きてる人はたくさんいるのではないだろうか。
子供がいるから、仕事が忙しい、もう歳だから、時間がない。やらない理由をあげだすときりがない。
そこから一歩踏み出す勇気が欲しい人に是非読んで欲しい。
大人になると忙しい日常の中でどんどんかき消されてしまう好奇心。大人ぶることを一度やめてみて、子供らしい好奇心をもう一度かきおこすことで、新しい世界が見えてくるのではないだろうか。