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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】小さな、しずかな物語ですが、これは狂気の物語です。『神様のボート』

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過去の恋人のことを忘れられず、あちこち転々として暮らす自らのことを「旅がらす」だという母と、娘の物語。

ふわふわと、まるで夢の中を生きているような、過去に縛られている母。それに反するように、すくすくと成長し、しっかりと時を刻んでいく娘。

仲睦まじく暮らす二人だったが、過去を生き続ける母と、今をしっかりと生きていきたい娘は、どうしたってすれ違っていく。

”夏は好きな季節だ。街は日ざしで溢れていた。毎日毎日、私たちはそれぞれの場所をぬけだしては会った。くらくらするような熱さのなかで。一瞬とも永遠とも思える信じられない時間の堆積のなかで。”

母は静かに、けれど狂気とも言えるくらいに、恋に取り憑かれている。

物語は母目線、娘目線と、交互に進んでいく。美しい季節の描写が、時の流れを意識させ、より一層悲しい気持ちになる。

同じところをぐるぐるとやみくもにさまよい続ける母は、病んでいるのかもしれない。けれど、それだけ恋にのめり込める様は、ある意味では幸福なようにも見える。

現実に折り合いをつけて、まともに生きていることが果たして正しいのだろうか。幸せについて、考えさせられる物語だった。

ちなみに著者はあとがきで、本書はいままでに書いたもので、一番危険な小説だと言っています。危険だけど、じーんと余韻に浸れる、素敵な作品です。

 

神様のボート (新潮文庫)

神様のボート (新潮文庫)

  • 作者:江國 香織
  • 発売日: 2002/06/28
  • メディア: 文庫