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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】うまくやろうとしなくていい。誰も見てないんだよ、人のことなんて。『昨夜のカレー、明日のパン』

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若くして夫を亡くし、義父との二人暮しを続けるテツコ。
ある日突然、笑うことができなくなってしまい会社を辞めた元客室乗務員の「ムムム」。
顔面神経痛になり、深刻な病状の患者の前でも意図せず笑ってしまう産婦人科医のサカイ君。
バイクで事故って正座ができなくなり住職をやめた深チン。

この物語は、そんなダメダメで、だけどとても愛らしい人々の日常を描く。

人は常に、なにかにとらわれながら生きている。
自分には、この人間関係しかないとか、この場所しかないとか、この仕事しかないとか、そう思い込んでしまったら、たとえひどい目にあわされても、そこから逃げるという発想を持てない。呪いにかけられたようなものだ。
けれど逃げられないようにする呪文があるのなら、それを解き放つ呪文も、この世には同じ数だけあるのかもしれない。

テツコの夫、一樹が亡くなったのは七年前で、その後も、義父のギフとテツコは同じ屋根の下で、働いては食べ、食べては眠ってと、ただただ日々を送ってきた。最初に割り振りされたはずの立場や役割は、今やすっかり忘れ去られ、なぜ一緒にここにいるのかという理由も、暮らしているうちに曖昧になりつつあった。義父は、いつの間にか「ギフ」となってしまったのに、七年前に死んだ夫は、ずっと夫のままだった。

本作に登場するだめだめな大人たちの中に、読者も自分と似た部分を見つけられるのではないだろうか。罪悪感に悩まされたり、周りの視線が気になったり、葛藤する日々の中、ささいなことがきっかけで、自分が何かしらにとらわれていたことに気付き始める。
そしてそこからすこしずつ解放されていく。

結局のところ、できることは、自分の目の前のことを、精一杯やっていくことだけなんですよね。
本書を読むと少しだけ救われた気持ちになります。ぜひご一読を。ドラマもおすすめです。

 

昨夜のカレー、明日のパン (河出文庫)

昨夜のカレー、明日のパン (河出文庫)

  • 作者:木皿 泉
  • 発売日: 2016/01/07
  • メディア: 文庫