本書は、著者の海外生活での体験や、専門分野である脳科学の観点から、「人が人を許せなくなってしまう」メカニズムと、そこから解放されるための科学的な方法が紹介されている。
そもそも人間の脳は対立するようにできていると著者は言う。「他に正義の制裁を加える」ことにより悦びを感じ、「私は正しい、あの人は間違っている」「間違っていることは、許せない」というのは、脳科学からみると、人間である以上誰でも考えてしまうことのようだ。
そのため、まずは自分自身が「正義中毒」になっていないかを把握することが重要だ。どんなときに人を「許せない」と思うのかが判断材料になると言う。
評者自身は、そもそも人に対して「許す」「許さない」という感覚すら持っていない。人と考えが違ったりしたところで「そうなんだ、へぇ~」以上。
また、何か嫌な思いをして人を「許さない」と思ったところで、損をするのは自分自身だ。どうでもいいことで常にストレスを感じ、憎しみの心を持っていれば、思わぬ病気になったり、寿命も縮まるだろう。そんな状況になるのは単なる時間の無駄だとしか思えない。
さらに本書では、脳を衰えにくくするトレーニングも紹介されている。なかでも特に著者がすすめる方法は、新たな事業をおこすなど、あえて不安定な環境に身を置くことだ。
他には、行き当たりばったりの一人旅に行くこと。それは、必ず予期しないことが起こり、それを乗りきるためには、脳全体を賦活させる。また、その事態を克服したときの充実感は、脳が得た新しい体験によるものだと言う。
特に海外に行くと、驚くべきことが多々起こる。評者も最初はいちいちイライラしていたが、そういうものだと思って、そのなかで、いかに楽しむかと考え方を変えれば、精神力も強くなり、何かあっても「そんなこともあるよね」と笑って面白がれるようになってくる。
恐らく今の自分自身は、繰り返し海外に行き、予期せぬ出来事が起こったときに、その都度、最善の判断を自らがくだしてきたことにより、培われていったのだと感じる。
本書を読むことにより、脳の仕組みを知り、心穏やかに生きるためのヒントを得ることが出来るのだ。