2020年東京オリンピックのメイン会場「新国立競技場」を手掛けたことで広く知られる建築家・隈研吾さん。本書は長年親交のある空間プロデューサー田實碧さんが、そんな建築家・隈研吾の魅力についてまとめた書籍。時折、田實×隈の対談を交えつつ、隈研吾の幼少期から現在に至るまでの感性・思考・足取りにフォーカスしていく。
日本を代表する建築家の一人でありながら、メディアを通じて見かける隈さんは、素朴で優しい印象を受ける。また新国立競技場以外にも、隈さんが手掛ける建築には「木」がふんだんに使われていて、その風合いが独特の魅力を打ち出しているように感じる。
本書を読み、なぜそのような印象を受けていたのかをよく理解できた。自然と調和した美しさ、風が抜けるような心地よさを「負ける建築」とした彼の根底テーマには、自然に負荷をかけないこと、環境を活かすこと、素材や伝統文化に留意し、出会う人の力に敬意を払うことなど、数々の哲学があるのだ。その上で新しい切り口をもって再生する。その力はやがて誰にも真似できない抜群のオリジナリティになったのだ。
本書を読めば、隈建築ワールドに触れる旅に出たくなる。高知の梼原町、宮城県留米の森舞台、石の美術館と、読みながら手帳に行ってみたい場所のメモが増えた。(が、最後になってメモをしなくても巻末に国内作品一覧マップがあることに気付いた)旅のプランニングの参考にもなりそうだ。