今まで明確に描ききれていなかった進化上のビッグイベント、「生命誕生」と「真核生物の誕生」に関して、エネルギーという観点を持ち込んで従来より大幅に明瞭なイメージを描き出した力作です。
生命誕生については、私は「まず遺伝子ができて、それを包む膜ができて…」と、なんとなく思ってました。しかし本書の主張は「いやいや、生物が何をやるにも(遺伝子を合成するにも、膜を合成するにも)まずエネルギーが必要でしょ!生命がそもそもエネルギーをどこから手に入れたかをまず考えないと!」というもの。生物のエネルギー源はプロトン(水素イオン)の濃度勾配なのですが、それが実は太古の海底で自然にできたある構造体に由来する、というお話。水と岩石からなる無機的な世界と我々生物には、実は明確な境界がなく、連続的につながっていると気付かされます。
進化ついては、「魚が誕生したあたりで、進化上のメインイベントはほぼ終わりでしょ。」と、この本を読むまで思ってました。でもこの本を読んで、「いやいや、バクテリア(核のない小さくて単純な細胞)から真核生物(核のある大きくて複雑な細胞)が生まれた時点で、進化なんてほぼ終わりじゃん!」と考えを改めました。真核生物の誕生は、進化の長いプロセスの中でもぶっちぎりで高い壁で、かつその後の複雑な多細胞生物の進化に不可欠なイベントだったのです。エネルギー面での研究から、バクテリアが寄り集まっても決して多細胞生物は誕生しないと予想されるのです。
この驚くべきストーリーは、仮説の域を出ておらず、根拠が不十分な部分もあり、それは著者のニック・レーン博士も認めています。しかし著者自身や他の研究者の研究成果を引用して可能な限り根拠を積み上げ、緻密に語っていきます。紹介される研究成果が多岐にわたり、またエネルギーに関する議論は難解で、読みやすい本ではありませんが、重要で衝撃的な一冊です。
- 作者: ニック・レーン,斉藤隆央
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2016/09/24
- メディア: 単行本
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