本書はお化け屋敷というエンターテイメントを題材にしている。よくよく考えると人がお化け屋敷に行くことはとても不思議なことだと思った。お金を払って恐怖を体験しに行くのだ。怖い思いをするためにお金を払うということが成立するなんて、お化け屋敷はとても面白いエンターテイメントだと思った。
著者の五味 弘文の職業は“お化け屋敷プロデューサー”だ。なぜそのような役割に需要があるのだろうか。本書を読むまではお化け屋敷なんて驚かせることができれば成立する、それだけの商売だと思っていた。
しかしそうではない。“驚き”と“恐怖”は似て非なるものだ。恐怖を植え付け増幅させるためには、背景とストーリーが必要になる。また、お化け屋敷に完結せず、この時代の背景まで抑えることが必要になる。
本書の中で特に興味をそそられたのは、お化け屋敷の中に展開される舞台についてだ。近年のお化け屋敷の舞台に墓地は使われないらしい。それは墓地という場所と我々の関係が過去と比べて薄く、本来墓地から連想される恐怖が湧かないのだそうだ。その代わりに今は学校や病院など、生活の一部に組み込まれている舞台が主流だという。
ストーリーも重要だ。来場者にいかにその舞台の登場人物だと認識してもらえるかが恐怖を増幅させるための鍵になる。しかしお化け屋敷はアトラクションであり、決してファンタジーの世界ではない。その距離感を測り、来場者をストーリーに引き込むこともお化け屋敷プロデューサーの手腕の見せ所だ。
本書ではお化け屋敷ビジネスの面白さを知ることができる。日常とフィクションとの狭間にあるようなこのエンターテイメントの中で、来場者に恐怖を植え付けるために様々な駆け引きが行われている。私たちがお化け屋敷で感じる恐怖はどのような要素で生み出されているのか、ぜひ本書で確かめてほしい。
お化け屋敷になぜ人は並ぶのか 「恐怖」で集客するビジネスの企画発想 (oneテーマ21)
- 作者: 五味弘文
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/06/09
- メディア: 新書
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