本書は演技トレーナーの著者によって書かれた、緊張をとるための方法論について書かれた異色の自己啓発本だ。元浪速の天才美人女優で今はスナックを経営している「ママ」と、広告代理店でのプレゼン大会に臨む会社員との全編対話形式であるため、ストーリーを楽しみながらすらすら読むことができる。
読んでみると、タイトルにある「緊張をとる」という大きなテーマを軸に、心の扱い方や目標達成のための考え方など、普段演技をしない人にも役立つエッセンスが満載だった。
特に印象に残ったのは、大きな目標を達成したいときに「ポジティブに考える」ことがとても危険だという考え方。世の中の論調としても、「ポジティブ」「楽観的」なことを良いこととされるが、実はそれは間違っている。大きな目標をポジティブに想像したうえで、次に実際に失敗するあらゆる可能性をネガティブに考え、最後にまた楽観的に実行する、という「ポジ・ネガ・ポジ」な姿勢が、成功するためには本当は必要だという。テレビや本で紹介される一部の天才や偉人の話では、結果や派手な部分のエピソードだけを紹介されるために、それを一般の人が真似するのは「劇薬」だともこの本では言われている。天才ではない普通の人が成功するにはどうすればいいのか、論理的な考え方と、身体的なトレーニング方法を交えて細かいプロセスを追って教えてくれる。
演技というジャンルを超えて、人生のあらゆる場面で役立つ考え方が書かれていて、正直そのへんの自己啓発書やビジネス書を10冊読むよりも得られるものは大きいと感じた。実は2015年に出された本で、目立つ新刊ではないが内容は全く古びない良書である。新刊ではない埋もれている良書こそ、このような書評で紹介する価値があると思うが、とにかくおすすめの一冊。