某アニメのようにイケメンスパイや美女スパイが出てきたかわかりませんが、スパイの工作によって政府の方針が操作されていたら、それは乗っ取られていると言っても過言ではないでしょうか。大東亜戦争(第二次世界大戦)中とその前後の秘密文書の公開やアメリカ連邦議会の記録および報告書によって、日本やアメリカ、その他の国もソ連の秘密工作に浸食されていたのです。「ホンマでっか?」と言ってしまうくらいの内容で、日本はアメリカと戦ったつもりだけど、実はソ連じゃないの!?と考え直してしまいます。果たして、スパイがどんなことをしていたのか?気になる方、知りたい方は是非、ご一読ください。
時は1930年代、日米開戦前です。当時、日本にもぐりこみスパイ活動をしていた首謀者が、ドイツ人の共産党員であるリヒャルト・ゾルゲであり、ゾルゲの右腕が朝日新聞記者であった尾崎秀実(ほつみ)です。ゾルゲや尾崎秀実をはじめとする工作員組織は近衛文麿内閣(日本政府)やドイツ大使館にまで食い込んでいきました。
著者によれば、政治家と新聞記者はお互いを利用し合うことによって、関係が深まることがよくある、とのことです。当時、中国の政治情勢が混沌としており、かつ、尾崎は中国専門の新聞記者であったのです。この尾崎の中国情勢の分析を近衛文麿首相や政治家が頼るようになり、なんと、内閣嘱託として首相官邸内に机を尾崎に与えたのです。尾崎は秘書官室にも書記官室にも出入り自由になりました。これじゃぁ政府の情報が駄々洩れですね。
さて、1930年代の日本では、ソ連を警戒する「北進論」、太平洋の資源(特に石油)を得る「南進論」があり、北か南、どっち攻める?といった状態でした。ソ連はドイツとの問題があり、日本とは戦いたくありませんでした。そこで、尾崎が近衛内閣に情報操作をします。その内容を本書から引用すると、
「ソ連は、日本と戦うつもりはない。
ソ連領のシベリアを攻撃しても、大した資源がないため、日本にとって利益は少ない。
南方地域には、地下資源があり、南進した方が利益がある。」
ここでのスパイ工作の注目点は感情論を一切言わずに、徹底して利益を強調したことです。著書には
「『政治は、利益によって動く』という現実主義に立脚して工作をしかけたのがソ連という国なのです。」
とあります。ソ連の狡猾さに悔しさを覚えながらも、徹底した工作に驚くばかりです。
そして、尾崎の影響を受け、近衛文麿内閣は南進論を決定します。ゾルゲはこの情報をソ連に送り、ソ連は日本と戦わずに済み、ドイツ戦に戦力を割くことができたのです。尾崎の果たした役割は歴史を動かす程の大きなものでした。しかし、その後、日本の特高警察によりゾルゲと尾崎は捕まります。もう少し早く捕まっていれば。。。
インターネットが普及し情報を手に入れるのは簡単になりましたが、情報に操られて見誤ることは避けたいものです。現代ではネット情報こそがスパイの役割をしていると言ってもいいかもしれませんね。情報の取り扱いについて学んだ一冊でした。
発行 2019/2/8
著者 江崎道朗(えざき みちお)
出版社 ワニブックス