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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】お伊勢参りの先に見えるものは?『弥次喜多 in DEEP』

 

第5回手塚治虫文化賞・マンガ優秀賞を受賞。
前作の「真夜中の弥次さん喜多さん」はクドカン原作で映画化もされている。

一行はお伊勢さんに向っていると言う大枠の目的があるが二人の設定がゲイであったりヤク中であったりとアクが強く、作者のしりあがり寿の絵柄もあって全体的にギャグ漫画の体裁となっている。

「体裁」と書いたのには意味があり、ただのギャグ漫画ではないからである。
前半は1話完結のオムニバス形式が続いていくが、

 死すら無かった事に出来る「ふりだしの畳」
 メビウスの輪のように時間が交差する「塀の向こう」
 道や己の存在意義がわからない「ヤマモクさん」

など、テーマを持った話が多い。
引き合いに出して良いかわからないが到着する星ごとにテーマが違う銀河鉄道999を思い出したりもした。

ただ、銀河鉄道999のようにわかりやすいテーマではなく、(999が薄いと言うわけではないです)
不条理ギャグ漫画家が書いているからなのか各話の受け取り方は読み手次第となる。
恐らくそれぞれの読者が生きてきて目聞き体験した事から答えは変わってくるのだろう。

中盤から鳥の親子や千年の宿の息子など登場人物が増えてきて途端にストーリー性が増してくるが、現実と夢を行ったり来たりしながら展開のギアを上げ、生とは何か、死とは何か。神はどのように出来るか。人は何を信じて生きていくのかなど、当初のギャグ漫画の要素を置き去りにして壮大なテーマへと昇華していく。

物語は大きく膨らみ、最後は収束を迎えていくが、収束の後に弥次さんと喜多さんがある登場人物に投げかける言葉はこのイノチが希薄な世界で我々に語り掛ける言葉となり、読者に人生の一歩を踏み出す勇気を与える言葉となるだろう。