家でも死ねる。誰もが死ぬという現実の中で、独居、いわゆるおひとりさま、であっても、家族がいても、死に場所は自分で選ぶことができるという強いメッセージに満ち溢れている。
千葉県八千代市にて在宅診療支援診療所を開業し年間100名以上の方の最期を看取っている在宅医療専門医の初めての著書。著者が大学時代に在宅診療に触れたときに、その経験が著者の医師としての人生を大きく変えたそう。医療は病院でしか行われないのではなく、生活の場にも溶け込むことができるということ。この目から鱗の経験から現在に至るまで著者は在宅医療の現場に立ちながら「逝き方=生き方」の啓蒙活動を行い続けている。
一体どれだけの人が、どう死にたいか?と考えたことがあるだろうか。
ひと昔前までは8割の人が自宅で亡くなっていたが、今は病院で亡くなることが当たり前になっている今日この頃。医師に意見を言ってはならないと思っている人が多いのではないだろうか。著者はたとえ医師であっても最期を他人に任せるべきではないと話している。健康な時から死に方を考え、身近な人とその気持ちを共有する、この過程こそが未来・現在・過去へと自分の生き様を考えることにつながっていく。著書の中では実際に在宅死を選んだ方々の生の声が収録されている。葛藤されながらも選んだ在宅死、もしくはその結果選んだ在宅以外における死についても、本人も残された身近な方々からも後悔は感じられない。
また、おひとりさまの在宅死について書かれていることも興味深い。家族や介護者がいないと病気を抱えながら自宅での生活は困難と思いがちだが、訪問診療医や訪問看護、介護保険を利用してチームを作ることによっておひとりさまの在宅死が可能になるのである。この20年で在宅における医療は劇的な進化を遂げている。自分で選んだおひとりさまの在宅死は孤独死では決してない。
生き方を選ぶことができるのであれば、同様に死に方も選択できる。
死から逃れることはできない。だからこそ死に方を選ぶ過程がその方の人生そのものを表現し、死後その人生をより輝かせるのかもしれない。死を迎える恐怖心が和らぐ本である。