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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】盲目の刃はどこに向けられるのか『情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記』

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近代日本では太平洋戦争について話題に触れることはほとんどありませんし、語り継がれる機会もなくなりつつあります。戦争の悲惨さを憂い、もう二度と戦争を起こすべきではないという論調が多くを占める一方、戦争自体の分析をここまで行っていたという事実はあまり知られていない。本書は情報戦という観点から何が起きていたのかを克明に記した、生々しくも惹き込まれる体験記です。

著者の堀栄三氏は大本営の情報参謀として終戦まで勤めあげ、米国の戦法研究や情報分析を一から積み上げていった天才。時には命の危険を顧みずに最前線まで赴き、些細な兆候を見逃さずに事実を把握していく姿は、まさに「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!!」の一節を思い起こさせます。そんな戦闘現場を見る機会が全くない日本本土にいる大本営。その希望的観測のみから出される指示命令が、数百万人の命をいともたやすく散らしてしまった。情報なき故の過ちであり、正しい情報がどれだけの価値を生み出すのかをズシリと実感することができるでしょう。

すでに戦争を体験していない国民が多数を占める日本で、ここまで克明に何が起こっていたかを記してもらえただけでもありがたいという心境です。経営でもよく使われる言葉の「戦略/戦術/戦闘」は、もともと戦争で使われていました。戦略の失敗は戦術や戦闘で取り戻すことはできません。米国に宣戦布告をするという戦略の失敗。広大な海が続く太平洋での侵攻戦略の失敗。それらの戦略には根拠も情報もなく、上層部の期待と楽観によって戦略が立てられていました。盲目ともいえる戦略策定の結果、最前線の大将は戦術で苦労をし、戦闘で尊い命が失われていきました。

この悲劇を繰り返すことなく、自分の人生や経営において、知らなければならない情報とは何かを見つめ直すきっかけになるでしょう。情報なき企業の悲劇にならないよう、時代の流れに対してアンテナを立てておくことがとても大切です。