「還らざる私の戦友と私が仆(たお)した敵空軍の戦士に本書を捧ぐ」、零戦エースパイロットで大東亜戦争(第二次世界大戦)を戦い、生き抜いた著者の坂井三郎氏の言葉が印象的でした。亡くなっていった戦友だけでなく、撃墜した敵機兵士への敬意も込めたのが本書と理解しました。何が原因で生き延びられたかわからない、死なずして負傷を負ったから?戦地での水で中毒なったから?最悪な状況でもその後の人生とはまったく予想できないものです。坂井三郎氏が命のやりとりをして、生死をさまよい、そして、生き抜いて得たものは何か、見ていきたいと思います。それは今の我々にも役立つのではないでしょうか。
坂井三郎氏は200回以上の空中戦を戦い、64機の敵機を撃墜しています。その中で、大きな負傷にあっています。ガダルカナルでの戦闘で敵機に撃たれて右目視力を失い、大空で生死をさまよい、意識朦朧としながら、ラバウルに帰還します。そして、本土に帰ることになりました。一方、ラバウルに残った戦友の多くの命が捧げられました。
他にも、戦いたい意志と裏腹に怪我や病気で零戦での参戦ができないことがありました。そして、彼は生き残り、以下の言葉を残しております。
【敵と渡り合う苦しさよりも、第二の天性をつくるまでに感じたいろいろの悩み、すなわち、怠けようとする心、妥協しようとする心、人をうらやむ心、等々いろいろの煩悩と闘うこと、言い換えれば、敵と闘うことより、自分に勝つことの方が、ずっと苦しいことであることを知った。】
相手との対決よりも、それまでの自分との闘いで勝つこと、克己(こっき)の方が苦しいことには印象的でした。いかなるときも最大の困難は自分に打ち勝つことなのでしょうか。また、こうかかれています。
【私は、戦闘機乗りとして、喰うか喰われるかの空中戦を経験した結果であるが、そのようなことでは生命力がもったいないと思う。さいわい、あのすさまじい戦争を生き抜き、勝ち抜いた私は、これから後といえども、この心構えを持ちつづけ、自分の力の最大限を燃やしつづけていきたいと思う。また、そうすることを、みなさんにもおすすめする。】
自分の力を出し続ける場所はどこか。まずは自分の力を出せるところを探せばいい、そして、最大限に燃やし続けることを目指したいと思いました。
最後に、上下巻を読んで、二十歳前後の若者が命を捧げて守ってくれた日本。今の環境は彼らの賜物だと感ぜざるを得ません。今の自分が生きている有難さを実感せざるを得ない本でした。
(本書は上下巻からなっており、本評は下巻も若干含まれているのでご容赦下さい。前回の上巻はこちらhttps://bookrev.horiemon.com/entry/2023/08/09/220000)
発行 2001/4/19
著者 坂井 三郎
出版社 講談社