バックパッカーに憧れる人は多い。
しかし、様々な事情で実現が難しい人もまた多いことであろう。
時間がない、体力がない、優雅な旅に慣れてしまったがゆえに貧乏旅行に戻れない等など・・・
そんな人に是非読んでいただきたい。
この旅行記は著者の体験をダイレクトに体感できる優れものだ。きっとこの本が、憧れのバックパッカーへの旅へとあなたを連れて行ってくれる。スケジュールを決めずに、車旅行などなかなか出来るものではない。
もちろん、これからバックパッカーを目指す人の入門書にもなりうるだろう。
著者はまず、旅の目的としてパリ・ダカールラリーの道筋を通ってみようと考える。
そこで著者の凄いところは、車の購入資金からなんとか工面しようと考えるところである。なんというバイタリティであろうか。
車を購入し、目的地までの道中は、果てしない苦労とハプニングの連続だ。極寒の中、狭い車中で寝袋一つで夜を明かす描写は、こちらまで震えが伝わり体が痛くなるようだ。
想定外のことが次から次へと起こるのだが、著者はそれも旅の醍醐味とばかりに楽しんでいるように感じた。
それ故、後半はかなり緊迫する展開となり、読者がハラハラさせられるものの、どこか文章からは緊迫感が伝わってこない。トラブルも含め、心から旅を楽しんでいる所以であろう。
無事にダカールへ辿り着いたかは読者が直接確認していただくとして、この本のもう一つの見どころは著者のキャラクターだ。
著者は道中での人との繋がりをものすごく大切にしている。
中には偶然とはいえ、通常では考えられない地位の人との交流もあり、物怖じせず誰とでも分け隔てなく素直な姿を見せているところが素晴らしい。
だからこそ旅に彩りが生まれ、出会った人々とのエピソードには心温まるものがある。
旅を通じてでしか得られない人間関係には羨ましさを感じざるを得ない。
また、著者のコミカルなキャラも見逃せない。
この旅で出会ったオーストラリア人が、後年旅行記を出版し、著者が登場するシーンとがあるのだが、その場の滑稽さが想像できて思わず笑ってしまった。
さて、感動が最後の最後に待っている。それは後書きの最後の2行だ。あなたも私も誰かの縁で生きている。そんな縁を大切にしたい。旅から学んだ著者の想いを、私も心に留め大切にしていきたい。