「あの人はセンスがいい」「あの会社に任せればセンスいいブランディングができる」。こんなふうに使う時、センスという言葉には暗黙のうちに感覚的なもので、数値化や説明ができないもの、さらには遺伝的なものだと思ってはいないだろうか。
しかし「センスのよさ、とは数値化できない事象のよし悪しを判断し、最適化する能力である。」と、「くまモン」を作り「JRE POINT」や「23区」のディレクトをしたこの本の著者水野氏は言う。そしてセンスの良さは客観情報の集積からくるもので、決して漠然とした感覚的なものではないと断言する。
例えばベルギー周辺の亜麻を使ったリネンのネーミング、などのくだり。この生地の産地全体をフランダースという、という情報をみつけた。一方上質な素材のリネンを好みそうな日本のターゲットは素材好きな20代半ば〜40代半ばだろうと見当する。その年代はフランダースと聞くと『フランダースの犬』のアニメを連想し、かつやさしく素朴なイメージをそのアニメに持っている。そのイメージはこの商品にマッチする。こういう知識をかけあわせ、「フランダースリネン」と著者は名付け、亜麻リネンの歴史を調べ、それに匹敵した文字書体を選ぶなど、決して主観ではなく知識を組み合わせたセンスからくるブランディングの例である。
このように客観知識を収集し、王道や流行りと照らし合せつつ、ターゲット像を掘り下げることなどがセンスに繋がる例のオンパレード。知識収集のポイントは常日頃「いつもと違うことをすること」。例えばお風呂に反対から入る。例えば先輩の知恵の聞き役に回る。非日常体験を著者は旅といい、現実に旅行をしなくても毎日知識を増やすタネが散らばっていることを示唆している。
また、デザインの理由を言語化することによりターゲット層へ訴える精度が高まると著者は言う。漠然とした感覚ではなく説得力も高まるのだろう。
もうこのようになると、センスはいつの間にか再現性ある科学に近くなると言えよう。世の中のデザイナーや発注担当者は、それを再現する訓練をすれば自ずとセンスアップできるのだ。
センスが無いとぐちをこぼす前に、今すぐちょっと違う体験から知識を増やせばよいのだ。著者からのプレゼントを受け取り実行に移す第一歩は、今すぐ知りたがり、今こそ知るときである。