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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】人生における執行猶予の期間が欲しかった。『深夜特急2 マレー半島・シンガポール』

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香港・マカオに別れを告げた著者は、意気揚々とバンコクへ飛んだ。しかしそこは想像とは全くかけ離れた街だった。バンコクという街は、いくら歩いても捉えられなかった。それは人々についても同じだった。いつまでたっても、著者にとってバンコクは曖昧で、とりとめがなかった。あれほど興奮した香港との違いは一体何なのだろうか。

そもそも著者がなぜこれほど酔狂な旅を始めたのか。その理由が、本編では明らかになる。

著者は大学を卒業後、就職した会社を一日で退社した。そして言わば偶然の成り行きで、ルポライターになった。その仕事がうまくいかなかった…ではなく、逆にうまくいきすぎた。仕事の量がいつの間にか著者を職業的な書き手になるように強い始めていた。

プロになるのは御免だった著者にとって、それはどうにかしなければならない状況だった。そして、次から次へと舞い込む仕事を断るためについた嘘が、「外国へ行く」だった。その嘘が本当になってしまったのだ。

もちろんそこには「無意味で酔狂な旅をしたい」という理由もあった。しかし一番の理由は、「人生における執行猶予の時間が欲しかった」ということだった。著者は決定的な局面に立たされ、選択することで何かが固定してしまうことを恐れた。つまり逃げたのだ。

しかしながらそこには恐怖ばかりでなく、不分明な自分の未来に寄り添っていこうという勇気も、ほんの僅かながらあったのではないか。著者は道中、しばしばそんなことを内省する。

そうした内省を挟みながら、何とかしてその土地を理解しようと、列車に乗ってタイからマレーシアへと、著者の旅は進む。そして著者は、今いる土地を理解できない原因は自分自身にあることを悟るのだった…。

本書を通して感じるのが、著者の素直さである。一つ一つの物事をよく観察し、ものすごく頭の中でこねくりまわして考えるのに、とても素直なのだ。一見不思議だけれど、あるいは素直さとはこういうことなのかもしれない。

人に対して素直であるという以前に、自分に対して素直であることが、本来の素直さなのかもしれない。頭の中に浮かぶ考えを否定せずに、そのまま受け入れてあげること。そして一つの出来事に出会うたびに、自分の考えを柔軟に変えていく。こんな著者だからこそ、旅を通して多くの学びを得られるのだろう。

著者がタイ、マレーシアにおもしろみを感じられなかった原因は果たして何だったのか。著者とともに探りながら読んでみて欲しい。