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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】いつか飽きる、いつか終わる、しかし今つかんでいる。『ひらいて』

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「なんだ、女子高生が主人公の甘酸っぱい恋愛ものか。」
初めの数ページを読んでそう思った。だけど、読み進めていくと、どうも雲行きが怪しい。
あまりにも緻密な描写で、心を深く深く抉ってくるのである。

主人公は受験を間近に控えた女子高生の愛。そんな彼女が気になっているクラスの地味な男子、たとえ。そして彼が秘かに付き合っている美雪。この三人を中心に物語は進む。

愛は、何事にも情熱が持てず、人生を虚しく感じている。心が冷め切って、笑顔もはりつけたみたいだ。周りの馬鹿な生徒みたいに、心から素直に笑えず、自分を固い殻で覆って生きている。

そんな中、彼女はたとえに恋をする。それはもう強烈に。もはや恋なのかさえよくわからない。初めて沸き起こる感情に戸惑いつつも、人を愛することを通して、初めて彼女は、自分の人生と向き合っていく。

”正しい道を選ぶのが、正しい。でも正しい道しか選べなければ、なぜ生きているのかわからない。”

周りが当たり前みたいに、親や先生の言うことを聞いて前へ進んでいく中で、愛は必死にもがいている。世間が押し付けてくる”正しさ”に全力で争う、若々しいエネルギーに満ち溢れた愛を見ていると、常識なんてものを気にすることが馬鹿らしくなってくる。

調べてみると、著者の作品は学校の国語の教科書なんかにも掲載されているらしい。確かにこういう作品を、高校生の自分に読ませたかった。読書することで、もやもやと鬱屈した感情を言語化できることは、やはり大きな喜びだと思う。

ちなみに著者のデビューは「インストール」という作品なのだが、当時なんと著者は高校生だった。瑞々しく繊細な描写が得意なのは、やっぱり当時から培ってきたものなのだろうか。

衝動に突き動かされていくうちに、殻をやぶっていく愛を見て、清々しい気持ちになる。恋とか友情とか家族とか、人は何かと定義したがるけれど、本来はそんなに簡単に割り切れるものではないはずだ。強烈に、心の底から湧き起こってくる感情に、名前をつける必要なんてないのかもしれない。

ひらいて(新潮文庫)

ひらいて(新潮文庫)