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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】台所のラジオから聴こえてくる声に耳を傾ける、十二人の物語。『台所のラジオ』

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小説に出てくる食べ物って、なんであんなに美味しそうなんだろう。写真とか、映像で見るよりも、言葉でさらっと説明される方が美味しそうに感じる。

本書は台所とラジオをテーマにした、短編集である。十二編の短編に、ちょっと変わった人たちと、美味しそうな食べ物たちが登場する。

なかでも評者が気に入ったのが、「マリオ・コーヒー年代記」。
”僕”の人生には、いつもマリオのコーヒーがあった。ごくごく平凡な僕の人生と、美味しいコーヒーを作り続けるマリオの人生。彼らの人生を振り返ってみると、あらゆるものが変わったような、何も変わらなかったような。普通の少年が普通のおじさんになるだけの話が淡々と進む。

著者の作品はどれもそうなのだけど、なんか寂しい。孤独感が常につきまとう。だけど妙に落ち着くというか、安心感があるので、もう一度読みたくなる。

本書のどの短編も読み終えるとき、「あれ、もう終わり?」って感じになる。なぜだろう?と思っていたら、物語の「始まりのところ」だけを書いてみたかった、と著者があとがきで言っていた。著者は物語の「始まりのところ」が好きなんだそう。

著者の作品に共通するのは、夢の中みたいな、ふわふわした、摑みどころのなさ。全てを説明しないどころか、少ししか説明してくれない。想像の余地が存分にあるところが、評者はとても好きだ。何かを得るための読書も良いけど、やっぱりこういうのも好きだなあ。

本書は、とにかく軽い気持ちで読めるので、疲れていて頭をリセットしたいときなんかにおすすめです。間違いなく、穏やかな気持ちになれます。

 

台所のラジオ (ハルキ文庫)

台所のラジオ (ハルキ文庫)