田舎に住む58歳のパート主婦のもとに友人からの喪中はがきが届くところから物語は始まる。亡くなったのは友人の夫だった。「羨ましい・・」主人公に湧き上がる感情。「この小説はミステリーなのか?」と一瞬思わせるが、その後はごくふつうの主婦が離婚を成功させるためにひとつひとつ壁を乗り越え進んでいく様子を描いた小説だった。
読み始めると「果たして彼女は無事に離婚できるのか?」だけが気になって、一気読みしてしまった。「ちょっと夫をひどく描き過ぎでは?」とも思ったりもしたが、いや、現実にも大いに存在するキャラであることは間違いない。世の離婚したい妻の言いたいことを全部詰め込み、ある日突然に離婚されそうな夫の要素を容赦なく詰め込んでいる。小説というよりはエンターテインメントを見ているようでもあった。中身は深刻なのに時折「フフッ」と吹き出してしまうのだ。
主人公の旧友たちも多く登場する。彼女たちの会話の中に「根性」「我慢」「忍耐」「最悪」という単語が出てくる。これだけ聞くと気分が悪く、そんなに結婚が過酷なら放棄すればいいのにと思うが、できない理由がそこにはある。妻にとっては当然という潜在意識や世間体だ。彼女たちの辛い状況は、夫の存在だけが原因ではない。妻の意識が作っている。つまり、例えば家事や子育てをせずに優越に浸る夫とそれを実は当然のこととして承諾している妻という構図が根深く残っているのだ。それに気が付いた主人公はポジティブループに入っていくのだった。
結婚てなんなんだろうと再び考えさせられた。自分も育児と仕事で疲弊していた時は結婚を契約としてしか考えられなかったことを思い出した。物語のように我慢を重ねて結婚生活を何十年も続けることに意味があるのだろうか。本には田舎特有の世間体とかが色濃く出てくるので、都会の人には少し気味悪いかもしれないが、一度は離婚したいと思った人には共感できる部分も多いだろう。もしかしたら勇気をもらえるかも。
この本は妻目線で描かれている。完全に読み手が妻の味方になるような構成だ。著者に対する勝手な要求だが、スピンオフとして夫目線でこの物語を描いてほしい。きっと全く違う物語となるだろう。それぐらい夫と妻の感覚のズレが大きくなっていたということである。
『もう別れてもいいですか』
作者:垣谷美雨
発売日:2022年1月7日
メディア:中央公論新社