本書では、著者が様々なところへ旅をして、その時々感じたことが素直な言葉で綴られる。詩のような美しい文章により、その時著者が見ていた風景が、色鮮やかに蘇る。
実際に、旅に出ることでしか出逢えない言葉というものがある。「百聞は一見に如かず」とはよく言ったもので、百回、エジプトのギザのピラミッドの大きさを聞くより、一回、本物を目にすればすべてがわかるのである。
著者が旅をする様子は、著者の生き方そのもののよう。身軽に、偏見を持たず、何事にもとらわれずに旅をしている。日常から離れて俯瞰的に物事を見ることができ、”今”に集中できるところが、旅の良いところかもしれない。
そんな旅において、何より大切なのは素直な心である。どんなものを見るか、よりもどんな心で見るか、の方がよっぽど大切だ。若い時には目で見たもの、感じたもの、すべての物事を吸収する力があり、まだ柔らかい脳と精神が、目の前にあるものの本質を見極めようとする。
しかし、同じ旅でもある程度年齢を重ね、判断力が培われていると、それが邪魔をして、実はそこにかすかに見えている新鮮なものを見逃すことがある。そこで大切なのは、いかに偏見を持たず、フラットな心で旅をするか。
現代は、インターネットで調べると、ある程度のことはなんだって知ることができる。そうして経験したこともないくせに、つい知った気になってしまう。こうやって人はどんどん頭でっかちになっていくのかもしれない。
自分の足で行ってみないと、何も始まらないし、何も見えてはこないのだと、本書を読んで改めて気づかされた。五感で感じることの喜びを、もっとかみしめて生きようと思える本だった。とにかく、偏見を捨て、もっといろいろなところへ足を運んでみよう。